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恒星:実家de修羅場 1

「……?えっ……ご主人様、何やって……」 「じっとしてて」  四つん這いのまま玄英の滑らかな頬に顔を近づけ、わざと荒い息遣いを聞かせた。二人分の汗と吐息が区別なく混じり合う。 「ちょっと!まさか一人でシてるの?信じられない!」 「だって俺もこのままじゃ寝られないしーーすぐ済むから」 「僕がいるのにどうして!しかも死角だし!」  上半身だけでもこちらに向けようとじたばたする玄英の後頭部を、空いている方の手で押さえつけた。 「しっ。声が大きい。玄英だって勝手に俺でシたことある癖に」 「……っ、だってアレは……!せめてシてるとこ見せてよ」 「だめ。この変態」 「触れてもくれないなんて酷い!」 「触っていいの?」  身体をぴったり密着させてさらに玄英の自由を奪い、縛った手首を上から握った。 「や!……一方的過ぎる。どうしてこんな……」 「我を忘れたら痕つけちゃうし」 「つけて欲しいって言ったのに!」 「んーー、……明日考えるわ」 「ご主っ、噛んで、るっ……耳っ……!」 「ん?痛いの?こんなの甘噛みだろ」 「い……っ、ないっ、けど……っ」 「嫌なの?やめる?」「や……ないで」  玄英の息遣いもだんだん苦しげになってくる……頃合いを見てまた、ちゃんと構ってやらないとな。 「ああ玄英ってやっぱり、本当可愛い。大好き」 「……っ!僕は我慢できない!これ解いて!」 「そこは『解いてくださいご主人様』じゃないの?」 「解いて……ください、ご主人様」 「嫌だ」「嫌って!」  身悶える玄英の上気した半泣きの横顔が可愛くて、見上げられた拍子につい、がっつりキスしてしまった。 「あっ……やば」 ーー洗濯物増えたわ…… 「坊ちゃん?」  死んでも見られたくない人に、絶対に見られたくないタイミングで襖が開き、清さんと目が合った。虚脱状態からの瞬間冷却で一気に冷静になる。  天国から地獄ってさぁ……  俺も玄英もベッドの上で固まってしまい、数分ほど三人で見合っていたーーような気がしたのだが、実際には秒以下だったろう。  思いっきり「最中」ではないにしろ、誤解されるには十分なシチュエーションだーーいや、誤解も何も「見たまんま」過ぎてその場を取り繕うという発想すら浮かばない。  清さんが恐ろしい勢いで部屋の中に踏み込んで来たかと思うと頬に激しい衝撃を感じ、次の瞬間には部屋の端に吹っ飛ばされていたーーすんでのところで剥き出しの急所だけは庇ったが、机の角にでも激突していたら再起不能の大惨事になるところだった。 「坊ちゃん!お客人に何てことを!」 ーーあ、そうか。そっち……  真夜中、ベッドの上に半裸の男が二人ーー浴衣帯を剥ぎ取られベッドの柵に縛りつけられた泣き顔の美青年と、抵抗する彼を身体で抑えつけ情欲の象徴を剥き出しにする部屋の主ーーむしろ犯罪行為以外の何に見えるんだ。 「坊ちゃん!俺は……俺はあんたを、こんな鬼畜にもとる所行を働くお人にお育てした覚えはっっっ!」  号泣しながら俺に覆い被さり、肘まで脱げかけた浴衣を器用に掴んでゆさゆさと胸ぐらを揺する清さんーーいや、鬼畜な所行はいつものことなんだが、あくまで合意の上でよりよきリア充ライフのためだ。  ……って、そんな言い訳したら絶対また殴られる。 「社長業を継ぐ気がねえのも、立派な年して身を固める気がなくふらふらしてんのもまだ許せます。いっそヤンキーでも半グレでもいい、筋の通った人間でさえいてくれたらいいと、その一心でお育てしたのに……この手を離した清が間違っておりましたああああ!」 「ちょ……ちょっと待ってくれ、清さん」  いつも無口で冷静沈着な清さんがめっちゃ喋ってる。というかパニクってる。  ここまで取り乱す清さんを生まれて初めて見た俺は、もっとパニクってしまってどうしたらいいかわからない。

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