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恒星:実家de修羅場 2

 中途半端なヤンキー生活に明け暮れていた黒歴史生産ラインの最盛期、将来を案じた清さんに根気よく軌道修正させられて今の俺がある。  頭越しに怒鳴りつけるのではなく諄々(じゅんじゅん)と諭すスタイルなのだが、かえってそれが凄みがあった。約束を違えたら何をされるかわからないような本気の怒りがじわじわと伝わってきて、瞬間湯沸かし器の祖父ちゃんの数百倍怖かったものだ。  恥ずかしながら当時の俺は、去勢張りの怖いもの知らずだったから何度か取っ組み合いの喧嘩になったことはあるーーそれだって全然歯が立たなかったけど、有無を言わさない一方的な鉄拳制裁って生まれて初めてじゃね?何げにダメージでかいわ。 「かくなる上は亡きおかみさんの墓前で、共に死んでお詫びを!」 「清さん、落ち着いて……!」 「ご安心ください。清も地獄の果てまでお供致します!坊ちゃんも男なら、覚悟を決めて腹括っておくんなさい」  何で地獄に堕ちる前提なんだよ……っていうか! 「せめて殺す前に俺の話を聞いてくれーーーーっ!」 「僕の恒星に何て事するんだーーーーっ!」  自力で帯紐をふりほどいた玄英が、ベッドの上から清さんに見事なフライングアタックを決めた。 「はっ……?」  無体を働かれていたところを助けたはずの玄英に奇襲され、何が何だかわからないまま抑え込まれた清さんは、やっと我に返った。 「……ええと……あの、すみません、遠山社長。野暮なことをお聞きしやすが……、するってえとコレは合意……」 「合意!合意に決まってるでしょう!恒星は僕の恋人なんだから!」 「……」 「恩人で家族同然なら、恒星が一方的に乱暴するような人じゃないって知ってるはずなのに!話も聞かずにいきなり僕の大事な人を殴るなんて!許せない!」 「玄英、ストップ!俺なら大丈夫だから!」  今度は俺が頭に血の上った玄英をなだめて、放心状態の清さんから引き離す番だった。  玄英がキレたのにもびっくりしたが、いくら若くて体格も大きいとは言え、所詮スポーツやジムで作ったホワイトカラーの筋肉だ。  日常業務が危険察知必須の現場作業で、若い頃のヤンチャぶりもシャレにならないレベルだった(らしい)清さんに本気で反撃されたら、まず無事では済むまい。 「清さんごめん……ショックだったろうけど、後でちゃんと説明す……」 「てめえら、うるせえぞ!今何時だと思ってやがる!」  この騒ぎに、ついに祖父ちゃんまでもが部屋に乗り込んできたーーもういっそ、今日が人類最後の日だったらいいのに。 「やれやれ、恒星と清かい……久々に派手にやらかしたなぁ」  不自然なほどぐちゃぐちゃになった浴衣をかき合わせ、事後感満載の裸を隠す玄英に「身内がとんだご迷惑をおかけして……」と平謝りする祖父ちゃん。  ザ・昭和の常識人たる祖父ちゃんは酔いが残っていたのも手伝って、目の前のセッ○スアンドバイオレンスな惨状が「清さんと俺の酔っぱらい同士の喧嘩+それを止めに来て巻き込まれた玄英」と映ったらしい(俺は飲んでないけどな!)  挙動不審な彼の視界の端から、ひとまず調子を合わせるよう必死にジェスチャーサインを送る俺。座り込んだまま黙秘権行使中の清さん。 「清と恒星には明日、話を聞く。もう遅いから寝ろ」  祖父ちゃんはあくび混じりでそう言い捨てると、自分の部屋に戻った。

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