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第6話 あの男の好きな人は……

「あの、聖女様。」 「シッ、静かに。」 「聖女様も一緒に尾行されては意味が無いと思うのですが……。」 ニーナにあの男の居場所を突き止めてもらった私は、急いでニーナと合流し、一緒に尾行を始めた。 ニーナは呆れた様子だったが、媚薬の効果をちゃんとこの目で確認しなくては、わざわざあの男に渡した意味が無い。 男は宮殿の中にいた。 最初は資料室に向かっていたのだが、入ってものの数分で出てきた。 その後も、会議室や資材庫に入ってはものの数分で出てくるというのを繰り返し、あの男はまた別の場所に向かった。 「次はどこに向かう気なのかな。」 「……恐らく、執務室ではないでしょうか。」 「誰の?」 「……マリア様の。」 え。 あの男がとある部屋に入っていくのが見えた。 急いで男を追いかける。 扉の前まで行ってみると、そこは確かにマリア様の執務室だった。 ちょっと待って。 もしかして、私勘違いした? あの男の想い人って、もしかしてマリア様? 自分の体から血の気が引いていくのを感じる。 マリア様はダメでしょ!! 急いでドアを開けようとしたが、リーナに止められた。 「何してるんですか、聖女様!」 「マリア様はダメ!絶対!」 「落ち着いてください!気づかれちゃいけないんでしょう!?」 もうそんなことを言っている場合ではない。 マリア様の貞操は私が守らなくては。 しかし、第1騎士団で小さい頃から特殊訓練を受けてきたニーナに、力で勝てる訳もなく。 気付くと私は床にへたり込んでいた。 「落ち着いてください。聖女様が取り乱していた理由は存じ上げませんが、中にはもう一人いるみたいです。」 「え?」 ドアに耳をつける。 確かに、あの男の他に、もう一人男の人の声が聞こえる。 「恐らく、リアム団長ですね。」 「リアム?」 「第1騎士団の団長です。」 リーナの上司じゃないか! マリア様の執務室に、第1騎士団長と第3騎士団長がいるなんて。 「……ん?ってことはもしかして、これ結構まずい?」 「はい、最悪の場合、殴り合いの喧嘩になる可能性も。」 それ、めちゃくちゃヤバいじゃん!! 騎士同士で殴り合いの喧嘩に発展した場合、その傷を治すのは私である。 ただでさえ、魔獣討伐で負傷した騎士たちを治療するのに力を使っているのに、こんな私的なことで私の力を使わないで欲しい。 止めに入らなければ! そう思い扉を開けようとした時、ふとあることを思い出した。 あの男は、資料室や会議室など、ありとあらゆる部屋に入っては、ものの数分で出てきた。 その場所になにか用事があったのであれば、もっと時間がかかるはずだ。 あの男は用事もないのに部屋に入っていたのだろうか。 何故? もしかして、人を探していた? 誰を? 資料室、会議室、資材庫、そして最後にマリア様の執務室。 こんなところに入る人物など限られている。 恐らくあの男は、目当ての人物が普段使っている場所を行っていたのではないだろうか。 そして、あの男が言った場所はどれも、使用人などは入れない場所である。 「リーナ、あの男がこの部屋に入ってからどれくらい時間が経った?」 「……もう10分は経っているかと。」 あのガサツな男が、この広い宮殿を歩き回って人を探していたとするならば、恐らく好きな人を探していたのだろう。 そして、この部屋には今もずっと滞在している。 ということは。 あの男の好きな人は、リアム団長……!

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