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第7話 何故聖女はマリア様ではなかったのか

「出てきましたね。」 「うん。」 あれから何分か経ってから、男とリアム団長は一緒に部屋から出てきた。 「おい!」 リアム団長の声が廊下に響く。 「マリア様の前であの態度は何だ!」 リアム団長は、男に対して激しい怒りをあらわにした。 「何だよ、別いいだろ。」 「いいわけないだろ!マリア様は、」 「聖女じゃねぇだろ。」 空気が一気に凍るのがわかった。 リアム団長の体が震えている。 「貴様……今なんと言った……。」 「マリア様は聖女じゃねぇって言ったんだ。」 「マリア様はこの世界のために尽力してくださっている……!」 「お偉方のご機嫌とって、年寄りのワガママ聞いて、魔獣討伐に口を出すことが、尽力か。笑わせてくれるぜ。」 「貴様!!」 リアム団長は男に掴みかかった。 「聖女がまだこの世界に来てなかった時にも、魔獣討伐で傷を負った騎士たちは山ほどいた。そんな時、マリア様は何してた。『自分には治癒能力はないから』って、政治家共の接待に行ってたんだぜ。」 「違う!」 「何が違うんだよ。聖女としての能力が無くたって、怪我人の治療くらいできるだろ。医療班だっているんだからよ。でも、マリア様はそれすらしなかった。聖女は、魔獣討伐で傷を負った俺たちの面倒を最後まで見てくれたぜ。」 リアム団長は、男の首元から手を離した。 違う。 私は元々看護師で、多少の医療知識があったから上手くいっただけだ。 魔獣討伐で傷ついた騎士の中には、生死をさまようくらい深い傷を負った者もいた。 目も当てられないほど酷い状態で運ばれた者も。 聖女として育てられながら、治癒能力を持っていないマリア様が、もしあの光景を目にしたら、恐らく正気ではいられないだろう。 何故自分に治癒能力がないのかと、自分で自分を責めてしまうかもしれない。 でも、男はそれが嫌だったのだろう。 聖女なのに、どうして仲間を助けてくれないのかと。 団長をやっているくらいだ、仲間の死は何度も目にしているに違いない。 マリア様が、治癒能力を持たない自分に無力感を感じていたように、デューク団長も、死んでいく仲間を見てそう思っていたのかもしれない。 廊下に、鼻をすする音が聞こえた。 リアム団長が、泣いていた。 「おい、」 「マリア様が、あの時政治家たちに対して何をしていたか知っているか。」 「……知らねぇよ。」 「お願いしていたのだ。できるだけ多くの、医療知識を持っているものを派遣して欲しいと。」 「……!」 魔獣というのは、この世界の各地に存在する。 だか、マリア様が住むこの土地は、他の土地に比べて魔獣の数が格段に多い。 魔獣自体が、マリア様の神力にあてられて集まっているというのもあるが、実はもう一つ理由があった。 それは、マリア様が民を守るために、より多くの魔獣を一気に討伐できるようにと、あえて魔獣が多く生息する地域に身を置いたのだ。 しかし、自分には聖女としての能力がなかった。 それに気づいた時には、もう手遅れだった。 「毎日のように、生死をさまようほど深手を負った騎士たちがこの宮殿に運び込まれてきた。マリア様がそれを見て、何も感じていないと、本気で思っているのか?」 「……。」 「マリア様は、「自分には医療技術はないから」と、他の地域からより多くの医療員を派遣して貰えるように打診していたのだ。俺たちのことを見捨てるなど、マリア様はそんなこと絶対になさらない!」 リアム団長の声は震えていた。 続けて、リアム団長はこう言った。 「マリア様は、聖女様がこの世界に来てから、思い悩んでおられる。俺は思うよ、何故聖女はマリア様ではなかったのか、とな。」 「聖女様!!」 気付いたら、私はその場を走り去っていた。

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