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第14話

「しかるにハルトさまへの接し方といったら百点満点でせいぜい五点。にこりともしないで高飛車に出るようでは、好かれるどころか嫌われても文句は言えますまい」 「……初恋なのだ、片思いをこじらせて早、十年なのだ。はしゃいではみっともない、と自らを律するあまり、意に反してよそよそしい態度をとってしまうのだ」 「然様(さよう)、幼少のみぎりよりワシュリ領国の発展に尽力してこられたクソまじめ……もとい、ほんの少々融通がきかない性格なのが災いして色恋沙汰と縁の遠かったイスキアさまが、旅先で恋に落ちたと打ち明けてくださった折には意中の御方が男児という点に魂消はしても、遅い春が巡ってまいったのだ、と不肖・メイヤー微笑ましく思ったものでございます……しかあし!」  小さな角帽を振り立てて言いつのる。 「謁見の間におけるふるまいを反省しないことには、心を通い合わせることなど夢のまた夢と断じざるをえません。よろしいですか、初恋の君と添い遂げたいとお望みなら一に努力、二に努力、三四がなくて五に努力ですぞ」 「くどい。説教はたくさんだ」  イスキアは窓辺に行って、たたずんだ。今日の湖面は、とろりと穏やかだ。だが、ひとたび天候が悪化すると船は出せない、指令書を託して伝書鳩を放つのも無理、と文字通り孤島と化す。  不便な面を勘案してもなおハルトを小島に呼び寄せたのは、ひとえに周囲の雑音から遠ざけておきたかったからだ。領主館(本館)のほうには口さがない者も出入りする。世継ぎを成さぬ身で許婚と名乗るのはちゃんちゃらおかしい、と陰口を叩くくらいならまだしも、ハルトをいびり出そうと画策する(やから)が現れないとも限らない。  ひるがえって、えりすぐりの臣下が采配を振るこちらの館は居心地がいい。ごちゃごちゃした都とは違い、視界が開けているという環境も相まって、開放的な土地からやって来たハルトもなじみやすいはず。  髪飾り風の帽子の留めつけぐあいを調節し、そこで(おく)ればせながら気づいた。そなたを迎え入れるにあたって、これこれこういうふうに心を配った、と暗にほのめかせば点数を稼げたのではないか? 溺愛道的には楽屋裏を覗かせるのも効果的だったのか? いや、恩着せがましいと受け取られて裏目に出る可能性が高い。  ともあれ、ふたりの親密度を高める舞台としては別館のほうが適しているのは間違いない。許婚と称しても(ふみ)を交わしたことがなければ、じかに話したことじたい十年前に一度あるきりでは、哀しいかな、友人未満の域に留まる。  条件がそろって初めて心の距離が縮まる、その第一歩が先ほどの対面だったのだ。

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