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第69話

「おいらの可愛い尾びれちゃんを問答無用でざっくりとか、マジありえないっす。罪滅ぼしに嫁! おいらを含めて青年団十二人分の嫁! 頼んますよ」  水妖は尾びれをくねらせて、砂混じりの水をイスキアに跳ねかけた。エラ呼吸から肺呼吸に切り替えられるあたり適応力に富んでいるようだ。それに半人半魚ならではの、ふやけた肌が乾くにつれて顔貌(かおかたち)がはっきりしてきた。いわばナマズ系の、とぼけた味わいに愛嬌がある。 「だいたいっすね、そっちのチビっこい彼が転覆するかもな感じに小舟でばちゃばちゃやってるとこを見かけてヤバくね? とかで追いかけてきたわけっすよ。地上の友だちもほしかったりするんで。なのに噂を鵜呑みにして逃げまくるし、傷つくわあ」 「いろいろ誤解してたみたいで、ごめんね」  ハルトはぺこりと頭を下げて、にっこり笑った。改めて自己紹介しようと、おぶさっていた背中から下りるはしから後ろへ押しやられて、 「こやつは甘言を弄して、そなたをといく機会を窺っているやもしれぬ」    イスキアは鋭い口調で断じながら銛を拾いあげた。 「疑り深いっすねえ。おいらたち、元は親戚みたいなもんなんだから仲よくしましょうよ」 「水妖と親戚? どういうこと?」 「言葉の綾であって大した意味はない」  と、綿菓子を作る要領で尾びれを()の部分で巻き取って牽制すると、 「ひとつ貸しっすからね」  水妖は片目をつぶってみせて、それから調子を合わせてはぐらかしにかかった。 「そうっす、ただの合い言葉的なやつっす」  水妖曰く「親戚」は、あながち的外れとはいえない。それほど両者の祖先には共通点が多い。ただし進化の途中で(おか)での生活に適した方向へ、また水棲に特化した方向へと身体機能に変化が生じた結果、枝分かれした。ちなみにイスキアの種族は前者だ。  それはさておき水分含有量が多い体質なだけに、水妖は愚痴っぽい性格らしい。リュックサックに詰めて持ってきた家出の七つ道具が、あるものは水たまりに浮かび、あるものは沈んでいる。水かきが発達した手がその中のひとつ、キュウリの塩漬けの瓶詰を掬いあげた。蓋を開けて匂いを嗅ぎながら、ぼやく。 「見た目がちょっとばかり変わってるからってヒトを襲うなんて濡れ衣を着せられて嫌われるんですもん、悲しいっすよ。と違って、水妖は平和主義なんすからね」 「たいせつな許婚があわや餌食に、というところに来合わせたのだ。逆上しても致し方あるまい」 「許婚! いいっすね、美しい響きっすね。くぅう、あこがれちまうなあ」

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