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溺愛道の教え、その9 想い人に秘密を持った報いを受けよ

    溺愛道の教え、その9 想い人に秘密を持った報いを受けよ  緑がかった金髪が何本かまとめて宙を舞ったのにつづいて、ツムジのあたりがやけにスースーしだした。  イスキアは弾かれたように飛びのくと同時に違和感を覚えた。何千粒もの真珠がちりばめられた礼装用のマントを脱いだような解放感に包まれるとは、これ如何(いか)に?  反射的に〝皿〟をまさぐって、蒼ざめた。ありうべからざることに丸出しになっている。蒸れる炎天下であろうが、あせもができて搔きむしりたいときであろうが、人前では決して外さない帽子が、消えた。  四方を見回すとジリアンが戦利品──髪飾り風の帽子をひらひらと振りながら長椅子を飛び越えるところだ。おまけに片目をつぶって嘲弄する始末。 「それを返せ、返さぬか」  イスキアは背もたれをひと跨ぎに追いかけ、対するジリアンは演壇にのぼるようにテーブルの上に立つ。 「従兄殿がだらしないからさ、僕がひと肌脱いで真実を教えてあげようって親切心じゃないの。ハルちゃん、ほら」  ハルトは投げあげられた帽子を受け止めた。眼下の光景に瞳を凝らして、きょとんとする。以前、悪戯っ気を起こして帽子にさわったさいに怒らせたことも相まって、帽子は若ハゲを隠すためのものだ、と確信を深めた。  日増しに親密度が増していく現在(いま)では、ハゲちゃびんだろうが毛むくじゃらだろうが、イスキアはイスキアで嫌いになりっこない、と思う。ところが羊が逆立ちで草原を一周するくらい想像を絶するものが帽子の下から現れた。  陶器のように艶やかで円盤状のあれは、なんだろう……? 「えっと……つるっつるに頭のてっぺんの毛を抜くのが歴代の領主の習わし、とか?」 「そなたに打ち明けねばと自分を叱咤し、疎まれるのが恐ろしいと懊悩して、二律背反に陥る毎日であった。わたしは、わたしの一族は実は……」    端正な(おもて)が苦渋に満ちてゆがみ、そんなイスキアにエレノアがすかさず寄り添う。そして、ねっとりと蜜をからめたような猫なで声で囁きかける。 「異種は所詮、異種。根っこの部分でわかり合えないのは不幸のもとですわ。イスキアさまにふさわしい伴侶は同族の中にいましてよ……名前は四文字、エで始まる娘が」 「って、ベタベタさわるな、離れろ!」  ハルトは〝鳥かご〟から飛び降りるのももどかしく、エレノアを押しのけるが早いか、イスキアの隣におさまった。独占欲と嫉妬心をない交ぜに、むき出しに。売約ずみの札を()げるように、ぴったりとくっついたうえで啖呵を切った。

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