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第122話
黄ばんだ狼の髑髏 の、その眼窩からひょろひょろと伸びたススキの穂がわびしげにそよぐ。
これは、わたしの未来を暗示しているのか? 苦笑交じりに髑髏を土に埋めてやった。ハルトに会えないずくで狼と同じ運命をたどる羽目に陥ることがあれば、死んでも死にきれない。
半月前のことだ。ジリアンが領主館(本館)に押しかけてきて宣 うことには。
──遺恨はあっても親愛なる従兄殿が腰抜けだったとは呆れ返るばかりだね。土下座でもなんでもしてハルちゃんとよりを戻す、きっぱりあきらめる、建設的なほうを選びなよ。
──大きなお世話だ。生涯にわたって恋に破れた喪に服するのが、わたしに似合いだ。
──へえ、じゃあ抜け駆けしてハルちゃんに会いにいっちゃおう、っと。あの子が僕に乗り換えても恨みっこなしだからね。
視察という名目でついてきたければ、ご随意に。挑発されて、売られた喧嘩を買わないようでは男がすたる。そんなこんなのすえに都を発ち、燃料を補給する間 も惜しんで熱気球を飛ばしつづけてきたというのに、あともう少しのところで置き去りにされるとは。
「……ジリアンめ、あやつの〝皿〟に胡椒なりとまぶしてやらねば割が合わぬ」
村をめざして再び歩きだした矢先、蹄 が大地を蹴る音がこだました。もうもうと土煙があがり、一陣の風がそれを吹きさらって、緑の波が輝きを取り戻したあとも、悪戯好きの妖精にからかわれているのだと思った。
たてがみをなびかせて疾走してきた栗毛の馬が、棹立ちになる寸前まで前脚を跳ねあげて、止まった。
馬上にある姿は、寝ても覚めても恋い焦がれてやまなかった……。
「やった、無事〝お土産〟発見」
涼やかな声が鼓膜を震わせると、湖でひと泳ぎしたとき以上に〝皿〟が潤 びるようだ。だが、この日のために新調した長衣に着替えて、身なりを整えたうえで村を訪 う予定が埃まみれとくる。
イスキアはもつれた髪をさりげなく撫でつけながら思った。あわや野垂れ死にというところにハルトが颯爽と現れるとは、神の粋な計らいなのか?
そうだ、想いの強さが天に届いたに違いない。十年前の、出逢いの場面が忠実に再現されているようで感動の嵐が吹き荒れる現在 、溺愛道の模範解答としてふさわしいものは、たとえばこれ。
──生き別れの苦しみにのたうち回りつづけたのちも恋情は燃えあがり、今しも紅蓮の炎が我が身を焼き滅ぼさんばかりだ。
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