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第125話

 何はともあれ生き返った気分で、もぐる。長衣とズボンが四肢にまとわりつくのを優雅にさばいて水と戯れているうちに、藻の根元に水晶の欠けらがめり込んでいるのを見つけてほじくり出した。  水底(みなぞこ)に大の字になって寝そべる。呼吸をするのに合わせて泡がゆるやかに立ちのぼり、その泡のひとつひとつに〝愛おしい〟が含まれているようだ。 「ガラクタというには、なかなか美しいものがあった」  これこれの種族、と暴かれる前のような爛漫の笑顔を向けてくれることを密かに期待して水晶を差し出しても、にこりともしない。ささやかな贈り物が償いに、ましてや固く(とざ)された心の扉を開ける鍵になろうはずがない。  改めて自分の甘ちゃんぶりを思い知らされた。イスキアは立ち泳ぎで岸から離れて、だが指鉄砲で水を浴びせてくるという茶目っ気を見せるさまに、一縷(いちる)の希みをつないでみたくなった。  手招きに応えてハルトがしゃがんだ瞬間を狙って引き寄せ、水中に招じ入れる。  水音に驚いて小鳥が羽ばたいた。 「わっ、わっ、わっ、溺れるう! おれ、カナヅチなんだってば!」 「しっかり支えているゆえ心配いらぬ。晴れて夫夫(めおと)となって以降、そうしたかった通りに」    防波堤となるかのごとく力強く両の(かいな)でくるむと、おずおずとだが身をあずけてきた。ほんのわずかにしろ分厚い殻にひびが入った気配を感じて、エメラルドグリーンの瞳が明るむ。  爪先の遙か下で水草がそよぎ、落ち着かなげにもぞつくのを縦抱っこに抱きかかえて池を一周しながら、 「そなたを愛したい放題に愛し、至福のときを過ごして添い遂げる──十年来、ずっと夢見てきたのだ。運命の赤い糸を結び合わせるところからやり直したい。後生だ、諾と、ひとこと諾と言ってはくれまいか」    一語、一語、恋情の抽出液をくぐらせたようにかき口説くにしたがって、恨みがましげでありながら、なんともいえず艶冶な目つきで()めあげてきた。  ひやっこい水が沸騰して〝皿〟が茹だるようで、この調子では河童の末裔にあるまじきことに、審判が下る前にぶくぶくと沈みかねない。

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