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溺愛道の教え、その11 真実の愛は無敵の基本を忘れるべからず

    溺愛道の教え、その11 真実の愛は無敵の基本を忘れるべからず  池からあがったとたんクシャミが出た。ハルトは下穿き一枚になってポンチョにくるまると、寒さしのぎにぴょんぴょん飛び跳ねた。  イスキアも下穿き以外を脱ぎ捨てた。ふんわりと下草が茂る天然のクッションのような一角に胡坐(あぐら)をかくと、広げたマントを頭上に差しかける。  相合傘にいざなわれたように、ハルトは庇を成すマントの下にちんまりと収まった。そして、いっそうポンチョを巻きつける。  ある意味、急転直下。めでたく両思いになって、いよいよ嫁入り、いや婿入り……公認の間柄と相成ることに意味があるのだから細かい点はこのさいどちらでもいいや、が俄然、現実味を帯びた。 「うひゃー」で「しょえー」で、武者震いがするというか、なんというか。 「秋深しの折、純血のヒトを水浴びにつき合わせるとは浅はかな真似をした。寒いであろう、火を(おこ)すとするか」 「おれ、頑丈にできてるから平気」  と、力こぶを作ってみせるそばからクシャミ三連発というありさま。ただでさえ、お互い素っ裸同然なのも相まって躰の芯がむずむずして落ち着かないったら、ないのだ。  ちらりと横目を流す。イスキアは着やせする性質(たち)とみえて、裸身はいちだんとたくましい。筋肉が描き出す美しい稜線に魅せられるとともに、なぜだか羊の丸焼きを切り分けているときさながら生唾が湧く。  しかも木々に囲まれてふたりっきりの世界ができあがっている状況下で、抜き打ち試験の解答用紙が配られたように、以前、ジリアンからねっとりと説明を受けた男同士の睦み方をまざまざと思い出すと微妙に恐慌をきたす。  ハルトは、ますます縮こまった。も、も、想像力が追いつかない分野とはいえ、イスキアがむらむらときしだいジリアン曰く「美味しくいただかれる」。 「鳥肌が立っているではないか。風邪をひかせては一大事、来なさい、温めてあげよう」 「ひゃっ!」  あたふたと横にずれて、抱きしめてくるのをかわす。その直後、すさまじく大きなクシャミの音が木立に響き渡って、くすくすと笑われた。 「まったく。我が最愛のハルトは意地っ張りなのが玉に瑕だ」  などと、ぼやいても語尾は笑い声に溶ける。ハルトは思わず自分の額と〝皿〟のそれぞれに掌をあてがってみた。 「いきなり何をはじめたのだ」 「仏頂面じゃないの、変、おかしい。熱があるかもって測りっこした……うわっ!」  膝の上にさらい取られて反射的にジタバタしても、温もりに包まれると甘酸っぱいもので満たされる。何層にも分かれた迷宮をさまよい歩いたすえ〝好き〟という矢印に導かれて出口にたどり着いたように。  恋の芽は、いつしか蕾がほころぶまでに生長していたのだ。

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