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第129話
ところが現在 は欲情してくれて、くすぐったいような喜びを味わう。若い雌と見れば手当たり次第といった感じの羊のゼンジローだって、とりわけお気に入りの一頭に対しては濃やかに接する。
イスキアにしても赤裸々にシモがらみの告白をしてくれるということは、それだけ心を許してくれている証し。
ハルトは思った。双六でいうあがりとなるには、もう一段階進む必要がある。左手の親指と人差し指で輪をこしらえた。そこに右手の人差し指を通して前後に動かすと、大きくうなずいた。
よし、行動あるのみ。ごちゃごちゃ言っている暇があるなら契りを結んじゃえ。
なので干し草の束を一輪車に移し替える要領でイスキアを押し倒した。すかさず跨ると、雄々しく宣言した。
「コンゼンコーショーしよう、今すぐ」
「な、何を血迷ったことを。窮余の策を講じる理由を滔々と述べたではないか」
おたおたするイスキアという珍しくも、ちょっぴり可愛い反応にときめいた瞬間、振り落とされそうになった。荒馬を御するやり方を応用し、内腿でぎゅっと胴体を挟みつけておいて、熱っぽく訴えかける。
「成人の通過儀礼で、度胸だめしに小刀一丁で狼とやり合うのと一緒だもん。初床 は婚礼の儀が終わってからなんて、のんびりしてたら白髪頭のおじいちゃんかもだし」
それに、とハルトは呟いて組み敷いた躰に視線を走らせた。均整がとれていて、なかでも逆三角形を描く上体の美しさには、同じ男としてあこがれる。うん、おれだってイスキアにしっかりそそられる。
好きな男性 と肌を重ねるのは、ようやく冬が去ったあとに若草が萌える草原を駆け回るくらい素敵なことに決まっている。そう思いながらのしかかっていくと、互いの鼓動が旋律と化して幸せという曲を奏でるようだ。
「あのさ、そなたって言ってみて」
「そなたは禁句と釘を刺したのは、そなたではないか」
「あっ、二回も言った。罰金でチュウ二回」
いそいそと唇をついばむ。おかわりすると閃いた。舌、を挿れたら蜂蜜を垂らしたケーキに砂糖をまぶしたような雰囲気がいっそう高まるはず。
恐る恐る、それでも唇の結び目を舌でつついてみたとたん、なぜだか横を向かれてしまった。
「婚前交渉……すこぶる魅惑的な響きではないか。無論のこと、応じるにやぶさかでないどころか、行け行けどんどんではあるのだが、ぶっつけ本番というのが不安材料なのだ……」
つれない態度をとったくせして、イスキアは何をぶつぶつ言っているのだろう。考え事に耽るのは後回しにしてチュウに専念してほしい。
ハルトはそう思い、深刻な表情 を突き崩そうとべろべろばあをしたところに、
「初恋に操立てしてきたがゆえの大問題があるのだ……」
こう切り出されると幸せ気分とは別の意味でドキドキしだす。
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