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第132話
「ひゃ、ん……! ちょっと待って……!」
暴れだしたのをやんわりと押さえつけて、ちっぽけな尖りを食む。たちまち太陽がそこに宿ったように、エメラルドグリーンの瞳が輝いた。
乳首の舌ざわりは丹念に裏漉ししたポタージュよりなめらかで、そのくせ程よい弾力がある。ひとたび味わうと虜になって、ちゅくちゅくと舌を蠢かすにつれて、おずおずと芯が育ってきた。初めて口にする料理の、その奥深さを堪能するように、なおも食みたおす。
「待ってて言ってるのに……!」
頭を引きはがそうとするのに知らんぷりを決め込んで、右の乳首をしこらせる。そこで左の乳首を手つかずで残しておくのは礼を失する、と反省して、慎ましやかに在る粒を舌でこそげた。
年季の入った童貞の強みといえるのか、妄想劇場の中では幾通りもの乳首の慈しみ方を研究ずみだ。肝要な点は一にも二にもメリハリををつけること。
イスキアは俄然、勇み立った。楚々と顔を出したところを唇の上下で挟み、笛を吹くように震わせる。
「こそばゆい、ってば……!」
左の乳首からもぎ離されても、右のそれに矛先を転じて舐めころがす。左の乳首から──以下同文。
そうやって平等に可愛がった甲斐があって、どちらの粒も珊瑚珠のように艶めき、ぷっくりと膨らんだ。
イスキアは一旦、半身を起こすと、自己評価の厳しい芸術家の目で検分した。左の乳首の色づきぐあいが若干、劣るだろうか。
ならば今一度、と顔を伏せていったとたん強引に仰のかされた。首の腱がねじれてもハルトを抱きしめて離さないあたり、恋情の力は偉大である。
「おればっか、いじって狡い。ジャンケンで勝ったほうが愛でる側に回るのが公平だと思う。でなきゃ、かわりばんこにする」
「それは、できない相談だ。そもそも物事には向き不向きというものがあり、わたしとハルト、愛らしくさえずるのはどちらが似つかわしいかは自明の理である」
「断然、イスキアのが似合う」
耳たぶを軽めにかじって、たしなめた。
「……っ、つ、変、変な感じする」
卒業試験を受けている最中のごとき三十路童貞男にとって、この反応はかなりの難問だ。くすぐったい、痛い、もしくは痒いならまだしも理解できるが、変?
「説明が不十分であるぞ。変とは、具体的にどのように変なのだ」
上目づかいに睨まれた。とはいえ日ごろに較べると鋭さに欠けて、そのうえ下腹 に妙な振動が伝わってくる。それは細腰 がしきりにもぞつくせいだ。
下穿きの中心が、その内側に息づく果実の輪郭を映し出して、あえかに翳る。変というのは、感じるというあれで、そうと合点がいくと〝皿〟がカッカと火照る。
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