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第136話
それも河童の血を引く種族の特徴だ。水かきの名残をヒトよりはっきり留める手が、狭間の奥へとすべっていく。
昇りつめたあとはいつもそうだが、動くのがかったるい。なので、なすがままでいる一方で中心が隆起した下穿きへと視線が吸い寄せられた。今度はおれがイスキアをあえがせる? 番で、倍にしてお返ししちゃおう。
隙をついて膨らみに触れるべく様子を窺い、それでいて微睡みにいざなわれかけた瞬間、ぎょっとすることが起こった。
すぼまりを指の腹で、くっと押されたのだ。
「どこ、どこ、さわってんのさ」
「わたしとハルトがひとつに結ばれる聖なるところだ。ただ準備をはじめるにあたって、ここに油の類いを塗る必要があるのだが(春本と題された溺愛道の副読本の受け売り)、くやしいかな持ち合わせておらぬ」
と、残念無念といった表情で〝皿〟を搔く。
ハルトは空を睨んだ。コンゼンコーショーにはあそこで番うことも含まれるのを、ころっと忘れていた。その行為には少し──正直に言ってかなり抵抗がある。だが言い出しっぺの責任云々という以前に、イスキアとだったらどんな試練も乗り越えられる。
だいたい、この期におよんで怖じ気づくようでは男がすたる。
すっくと立ちあがった拍子に、花茎がぷるんと揺れた。残滓がとろりと内腿を伝い落ちるさまは、目いっぱい風をはらんだ帆を巨大なうちわで扇ぐに等しい眺め。ところどころ下穿きの縫い目がほころんだのはさておいて。
「ばあちゃんが薬草を煮詰めて作ってくれた軟膏なら持ってる。ちょっと油っぽいやつ」
くだんの品は、瓶に詰めて革袋に入れて持ち歩いている。立ち木につないだ馬の元へ行き、鞍にくくりつけてある中から取ってきた。
蓋を開け、瓶を傾けてイスキアの掌にひと垂らし。すると粘りぐあいを吟味するように指をこすり合わせて、曰く。
「これは、なんという薬草の成分を抽出したものであろうか。〝皿〟にさかむけができた場合などにも効くのであろうか。知恵を拝借したいが、帽子を外すと祖母殿は卒倒するやもしれぬな」
突然、ペラペラとしゃべりだしたあたり緊張をまぎらわしているっぽい。ハルトは笑いを嚙み殺し、そして眦 を決した。羊の種付けを手伝ったさいのあれやこれやを記憶から掘り起こし、且つ羞恥心をねじ伏せて四つん這いになる。
がんばりどころだ、と自分を励ます。心身ともに結ばれたあかつきには絆がいっそう強まって、ジリアンが再びふたりの仲を引き裂こうと画策しても、今度は付け入る隙などなどこれぽっちもないはず。ともすると、へたり込みがちになるのを堪えて、くっつきたがる足を開く。深呼吸ひとつ、
「どんと来いだ、早くしよ」
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