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第137話

 ……決死の覚悟で秘部をさらけ出したにもかかわらず、黙殺されてしまった。キッ、と肩越しに振り向くと、イスキアは〝皿〟に水をかけながら、まじめ腐って答える。 「草原は空気がからっとしているぶん乾くのが早い、用心するに越したことはないのだ」 「苦しまぎれの言い訳っぽく聞こえる」  バレたかと言いたげに、ぺろりと舌を出してみせるのが新鮮だった。  ハルトは改めて腰高に這いつくばり、イスキアは双丘の傍らに陣取って仕切り直しといく。もっとも軟膏を花芯に塗りつけられるなんて、恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。  すがりつく眼差しを向けるたび、うなじをついばんでくれるおかげで、あられもない姿勢を保っていられた。  丹念に塗り込められうえで襞がひとひら、めくられた。ふだんは慎ましやかにたたまれているぶん外気に触れるとすうすうして、心臓が踊り狂って。それでも心の底からイスキアと夫夫(めおと)になりたいと望んでいるから、へっちゃらなのだ。とはいえ、いよいよ指が分け入ってくれば遮二無二ずりあがる。 「試行錯誤を重ねるより他ないのだが、どれ、塗り足してから(なか)を探るとしよう」 「平気。そのうち慣れるし、つづけて……」    と、強がりを言っても声が震える。誰かの舌が口内を泳ぎ回る感触にさえ慣れたとは言いがたい。躰の内側をじかにまさぐられる衝撃度は桁違いで、脂汗がにじみ、吐き気までもよおした。  いったん指が抜き取られた。へなへなと(くずお)れていく瞬間を狙い澄まして乳首をつままれると、バネ仕掛けの人形のように腰が元の位置に戻る。程よく(ぬく)まった軟膏が襞にしみ込むにつれて、いくぶん気持ちが落ち着いてきはじめた。  そうと察して、そろりと菊座に指があてがわれた。 「愛し合う準備段階において内をほぐすという工程をおろそかにすることは(まか)りならぬと、ものの本は説く。気遣うよう努めるが、それには協力してもらわねばならぬのだ」 「どんと来いだって、さっき言った」 「頼もしい。そなたの剛毅な点が、わたしを魅了してやまないのだ」 「はい、罰金のチュウを徴収しまあす」  むしゃぶりつくように口づけ、熱っぽく応えてこられると、むずかるみたいに、にもかして甘やかに下腹(したはら)がざわめく。頑なに鎖されていた門が、ゆうるりと開いていく。  待ちかねていた、だが急くのは禁物というふうに指がしずしずと遡りはじめる。洞窟が冒険心をかき立てるのに勝るとも劣らず、花筒の構造も探究心を刺激する代物(しろもの)。  その道の狩人が宝探しに励む熱心さでもって、鉤に曲がった指が内壁のあちらこちらを押す。

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