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第141話

  「ふ、んん、っ、んんん……ん!」  努めて力を抜くこと、と忠告されていても押し開かれる辛さにいきんでしまう。頭を振るたび黒髪が草の(しとね)を掃き、あるいは蒼ざめた顔をぴしぴしと打つ。  陰門を巡る攻防戦は内臓がせりあがるような苦痛をもたらし、ハルトはすがりつくものを求めて腕をさまよわせた。すぐさま首筋へといざなわれ、ぎゅっと結び合わせる。  最初の恐慌状態から脱すると、気づかわしさと、情欲に駆られた雄のそれをない交ぜの表情(かお)が、ぼやけた視界に映し出された。 「不慣れなこととはいえ、もたついて……いや、言い訳はするまい。無理を強いて、すまぬ」 「だったら立場を代わってくれる……っ!」  エメラルドグリーンの瞳に影が差すと、少なからず征服欲をかき立てられるのだから。 「でも……平気だ。イスキアは丸ごと全部、おれのもの。おれも残らずイスキアのもの」  挿入(はい)らせてくれ、と懇願するふうに陽根が脈打つと全身がまっぷたつに裂けてしまうよう。だが、今この瞬間から、ふたりの新たな歴史が作られていく。  ハルトは泣き笑いに口許をほころばせた。キュウリの蔓が支柱に巻きつくように、あるいは舟を(もや)うように身も心も分かちがたく結ばれる。神聖で、歓びにあふれて、恋、そのものに昇華されるようだ。  (ほしいまま)に貪りたいのを抑えているとみえて、ぴくりともしない腰に足をからめて急かす。それより手っ取り早く迎えにいっちゃえ、とばかりに自ら尻たぶを広げた。 「まったく、そなたの性根が据わっていることといったら脱帽する」 「へへ、チュウもおらい、っと」  じわじわと攻め入ってこられるなかで交わすくちづけは、互いに対する愛しさも相まって、砂糖菓子に蜂蜜をこってり塗ったように、とびきり甘い。  ただし屹立が深みに到達するのに先立って舌と舌で睦み合えば、ときめくあまり秘道が狭まって、ニッチもサッチもいかなくなるのが玉に瑕だが。    ところで番いおおせるまで秒読み段階に入った折も折、単騎、草原を駈ける姿があった。手綱を取るのはジリアン。

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