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最後の鬼ごっこ②

「苦労するな、渉も」  そんな俺に、牛乳パックのストローを刺しながら星野さんが分かり切ったようにため息をついてみせた。この人は俺と同じだから、鳴海さんのそばにいても安心できる。つまり、同じ穴のむじな。俺は彼を愛してるし、星野さんは教師の立川が好きらしい。 「まぁ。あの人のことだから、そう簡単に分かってもらおうとか考えてませんから」 「それにしても、見てるこっちが気付くほどの反応してるのに、とうの本人が気付かないんじゃなぁ……」 「え。俺、なんか反応してましたっけ?」 「いや、毎日してるだろ。さっきのもそうだけど、昨日は鳴海がお前の髪いじり始めたらムラムラして『ヤりたいの?』とか言いだしたし、一昨日は間接キスとかいって俺が彼のジュース飲むの阻止したりさ。一番ひどかったのは、体育終わった後。鳴海の着替え見て、トイレに連れ込もうとしたときだったな。あれは危なかった……」  無自覚の行動だったので、そこまであからさまだったのかと自分で驚いてしまう。俺が気付いていなかったことに、やっぱりなぁという様子で星野さんは呆れたような苦笑いを浮かべた。 「それよりも、渉ならさっさと鳴海を押し倒しちまうと思ってたんだがな」 「俺は……俺は、しばらくこのままでいいですよ。あの人のことは好きだけど、今好きっていったらあの人完全に避けそうだし……」 「おいおい。随分臆病な発言だな」 「臆病というより、大切にしたいんですよ」  再び新しい煙草を口に咥えた。彼にも勧めたが、銘柄が違うからと断られる。どうにも俺のことをなんでも知っているという様子が癪だったので、煙草を拒否した理由について勘ぐりをいれてみる。 「立川は他の男の臭いに、敏感ってわけか」  図星だったらしく、星野さんが口にふくんでいた牛乳を吹いて苦しそうにせきこむ。彼がいれば、喜んだ情景だろうに。 「な、な、なんで、しって!?」 「あぁ。勘でいってみたけど、当たってたんだ」 「お前……!」 「顔赤いですよ。もう付き合ってんの?」  彼がさらに顔を赤くしながら、体育座りしていた膝に顔をうずめてしまう。その様子をみて、この生徒と教師への羨ましさが一気に心へ打ち寄せる。 「星野さんが羨ましい」 「……なんで?」  うつむいているので、ややくぐもった声が返ってくる。俺は煙を口から噴き出すように、空に放った。 「好きな人に、そこまで愛されているんだからさ」 「お前だって、さっさと言っちまえばいいだろうに」 「だから、言ったらまたあの人逃げるでしょ」 「……にぶいのは、鳴海だけじゃなかったか」 「なんかいいました?」 「いや……気にするな」  その時鳴海さんが扉をひいて、こちらに戻ってくるのが見えた。綺麗になったぞといわんばかりに、俺の学ランを盛大に広げている。顔がゆるんだ。  あの人と一緒にいれるだけでいい、今はそれで充分に満足だ。そのとき、確かに俺はそう思っていたのだ……。

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