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蝙蝠だって恋をする 7

 奈帆人が幼くて鈍かっただけで、衛陸が狼だということに関して、その兆候が見られなかったわけではない。  初対面で奈帆人が蝙蝠から人間になっても、衛陸は驚かなかった。つまりは、自分も人間の姿から狼の姿になるので、他にそういう相手がいてもおかしくないと分かっていたのだ。  蝙蝠になった奈帆人が干上がっているのが分かるというのも、嗅覚の鋭い動物は弱っている動物の匂いを嗅ぎつけるという。  そして、衛陸のことを考えて抜いている場面を見られた奈帆人が、蝙蝠の姿で逃げ出したときに、どちらの方向に行ったのか、大体匂いで感じ取って追いかけてこられたというのだ。 「雨のせいで途中で匂いが消えてしまったのだけれど、近くにいると思ったから、何度も名前を呼んだのよ」  そのせいで、逃げ出した猫を探していると思われて、酔っ払いに絡まれたのだが、それも全裸という情けない恥ずかしい姿だったが、奈帆人が助けられた。 「狼の姿って、満月の晩にしかなれへんとか、そういうの?」 「いいえ、いつでもなれるけど……なるのはちょっと恥ずかしいというか……」  人間でない姿を見られるのはあまり好きではないという衛陸に、無理強いをするつもりはなく、奈帆人は説明だけで衛陸が狼であることを理解した。ひとではないものは、長命だったり、人智を超える力を使えたりするので、それを捕らえて利用しようとする輩もいる。恐らくは、晴海と衛陸の本当の両親はそういう輩に追われて、双子だけでも逃がそうと病院の前に置いて行ったのだろう。 「せっちゃんも知らへんのよな……驚くやろな」 「千都さんは気付いてるみたいだけど、黙っていてくれるの」 「ちぃちゃん、気付いてたんか!?」  もしかすると、和泉家最強の吸血鬼は千都かもしれないと戦く奈帆人に、衛陸が手をのべる。 「どうする? 試してみる?」  時刻は深夜、もう千都はぐっすりと眠っていて朝まで起きてくることはない。手を引かれて、衛陸の部屋に連れていかれて、奈帆人はこくりと喉を鳴らした。パジャマの襟から見える衛陸の首筋が、妙に艶めかしく白く感じられる。 「血を吸うてもええ?」  伴侶にしてもいいかという問いかけに、衛陸は長い睫毛を伏せて小さく頷いた。パジャマの襟元を緩めて、膝の上に乗り上がるようにして首筋に噛み付く。ふつりと皮膚が破れるのはいつものことだが、今回は血を吸うだけでなく、奈帆人の吸血鬼としての力を衛陸に注ぎ込む。  酩酊感を伴う恍惚とするような快楽に、頭の芯が痺れてくる。 「エリさん、好きや……愛してる」  首筋を吸い上げてから口を離して、口付けると目を閉じたまま衛陸が奈帆人の舌を受け入れてくれる。夢中で口腔内を舌で探って、貪るようにキスをする間に、奈帆人の手は無意識に衛陸の豊かな胸を這っていた。胸の尖りを摘んで、捏ねると、びくりと衛陸の逞しい身体が震える。 「エリさん……エリさん……」  鎖骨に歯を立て、胸に吸い付いていると、衛陸がパジャマを脱いでしまう。明かりを落とした部屋の中でも白く浮かび上がる体は、筋肉に覆われていて、ギリシャ彫刻のように美しかった。 「お風呂で抜いてたみたいだけど、まだ勃つ?」 「エリさんを前にして勃たんわけがない!」  いそいそと奈帆人の方もパジャマを脱ぎ捨てて、裸になって、何も隔てることなく衛陸と肌を合わせて抱き合った。しっかりと厚みのある衛陸の体は弾力があって柔らかく、瘦せぎすでひょろひょろの奈帆人の体とは比べ物にならない。  どこもかしこも触りたくて堪らないが、ぐっと我慢をして、抱きしめ合ったままで衛陸に確認を取る。 「触られるの、嫌やない?」 「平気よ。奈帆人さん、可愛くて、気持ちいいわ」  微笑まれて、奈帆人はぼぅっと衛陸に見惚れてしまった。その鼻からつつっと垂れた鼻血を、衛陸が手で押さえてくれる。 「のぼせたかしら?」 「えりひゃんが、えりょいから」  鼻を押さえられているのでくぐもった声になる奈帆人に、衛陸がティッシュを渡して、ベッドの上に寝かせる。 「やぁや、やめんといてぇ」  興奮しきって股間は勃ち上がって痛いくらいなのに、ここでお預けなどつらすぎる。泣き顔になった奈帆人の額に、衛陸がキスをくれた。 「可愛い蝙蝠さんは、狼に食べられるのよ?」  茶目っ気たっぷりに言った衛陸が、自分の指を舐めしゃぶって、丸い形のいい大臀筋を割って狭間に滑りを塗り込めていくのを、奈帆人は鼻血を止められずに目を爛々と輝かせて見つめていた。ぐちゅぐちゅと聞かせるように音を立てて、何度か唾液を足して、衛陸が自ら後孔を拓いていく。 「しょんな、えりょいの……」 「知識として知ってたけど、するのは、初めて、よ?」  息を詰める衛陸の立派な中心も勃ち上がっていて、嫌がっていないのは一目瞭然だった。鼻血を出して興奮しすぎて動けない奈帆人の細い腰に跨って、衛陸が指を引き抜いた後孔に奈帆人の張り詰めた先端を宛てがう。ゆっくりと腰を落としていく衛陸に、奈帆人は鳴き声を上げた。 「ひぁっ! 出るぅ! 出てまうぅ!」 「んっ、あぁっ……奈帆人さんの、おっきい、からっ……」  簡単には飲み込めず、狭く熱い後孔にきゅうきゅうと締め付けられて、奈帆人は泣きながら達していた。全部入ってもいないのに達した情けなさに、涙がぼろぼろと溢れる。 「ご、ごめんなしゃい……おれ、はやくて……」 「まだ、できる?」 「で、できる!」  繋がったままで途中まで飲み込んでいた奈帆人の中心が、一度弾けたのをいいことに、一気に最後まで飲み込んでしまった衛陸に締め付けられて、また奈帆人の中心は芯を持つ。 「あっ、あぁっ! エリさん、すごい……悦いっ!」  がくがくと下から突き上げる奈帆人に、衛陸も白い喉を反らせながら腰を躍らせた。  達するのは早いが若い分だけ復活も早く、何度も衛陸の中で達した奈帆人は、力尽きて衛陸に抱き締められて寝落ちそうになっていた。 「奈帆人さん、千都さんが起きる前にお風呂とシーツ替えを済ませておかないと」 「んー、えりしゃん……が、がんばる……」  体格の分だけ衛陸の方が体力もあるのか、抱き締められて入った風呂では寝て溺れそうになり、シーツを替えるのは任せてしまって、奈帆人は衛陸にパジャマを着せてもらってその胸に顔を埋めて眠ってしまった。  翌日、眠くて腰も立たない奈帆人は、蝙蝠の姿で衛陸の胸に張り付いて一日過ごした。 「あにうえ、よかったですね」 「うん……せっちゃん、帰ってきたら驚くやろなぁ……」  兄夫婦が旅行から戻るまでまだ日にちがある。千都には衛陸がきちんと「奈帆人さんと結婚することになったわ」と説明していた。 「ちづも、うんめいのひととであいたいものです」  伴侶の胸にくっ付いて幸せそうな兄を見て、千都が言っているのを聞きながら、奈帆人は衛陸の心音を聞いて穏やかに眠っていた。  旅行の日程が終わって帰ってきた世津と晴海には、大事な話があると、衛陸と奈帆人で報告をした。 「奈帆人さんの気持ちを受け入れて、結婚することにしたの。もちろん、奈帆人さんはまだ若いから、今すぐじゃないけれど」 「良かった、エリちゃん、おめでとう」 「ありがとう、はるちゃん」  にこやかに祝福する晴海に、衛陸も笑顔になる。左岸の双子はそれで良かったのだが、和泉の兄弟の方が少しばかりややこしかった。 「奈帆人が抱きたい言うてたから、エリさんに振られてて……奈帆人が抱かれる方を了承したから、くっ付いたってことか……」  あれから毎晩のように愛し合っている奈帆人は、衛陸より細身で体力がないせいか、幸せそうな顔で生まれたばかりの子鹿のような足取りになっているのを、世津は誤解したようだが、完全に幸せモードの奈帆人はその呟きを聞いていなかった。 「お土産のお茶があるよ。みんなでお祝いに飲もう」  千都も奈帆人も未成年なので、お酒で乾杯というわけには行かず、赤い花とオレンジのお茶でみんなでお祝いをした。  旅行中に和泉の家に晴海の工房を増設する工事は終わっていて、衛陸と奈帆人が付き合うことになったので、和泉の家と左岸の家も繋ぐ工事をしてしまおうという話になった。  二つの家は一つになって、二組の兄弟は一つの家族になった。

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