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大学生蝙蝠の恋愛事情 1

 大学の入学式にも衛陸は千都を連れて出席してくれた。保護者席にいる長身で金髪に水色の目の逞しい男性と、黒髪に黒い目の可愛らしい幼女はとても目を引いた。三つ揃いのスーツの衛陸に、奈帆人は釘付けだった。  入学式の後には説明会もあって、資料を大量に抱えた奈帆人の手から、カバンを自然に持ってくれる衛陸に胸がときめく。 「今日はどんなご馳走にしようかしらね」  帰り道で衛陸にメロメロになりすぎて、腕を組んでべったりくっ付いたのも仕方がない。盛大な告白からきっぱりと断られ、紆余曲折あって掴んだ恋。  奈帆人は衛陸を手放すつもりはなかった。 「千都さんって、奈帆人さんや世津さんを『あにうえ』って呼ぶけど、どうしてなの?」 「ちづは、じだいげきがすきなのです。じだいげきは、にほんがほこるエンターティメントです。それに、おさむらいさんは、うまにのれるのです」 「千都さん、馬に乗りたいの?」 「はい、ちづは、じょうばにあこがれています。いつか、やぶさめをやってみたいです」  5歳児の夢を語られて、「そのうち乗馬クラブに行ってみましょうか」などと話しながら、衛陸がご馳走をテーブルに並べていく。奈帆人も千都も未成年なのでアルコールはなかったが、アップルサイダーが細いシャンパングラスに注がれて、ラザニアにミートローフ、温野菜のサラダにポタージュスープ、パンよりもご飯が好きな千都のために主食はまん丸の一口おにぎりが添えてあった。  乾杯をして衛陸がそれぞれに取り分けてくれる。 「最近お祝い続きで、エリさんのご馳走が食べられて幸せやわぁ」 「奈帆人さんにとっては、一生に一度かもしれない大事なイベントですもの。千都さんの進級お祝いも兼ねてだし、せっかくなら美味しいものを食べた方がいいわよね」  奈帆人さんは少し痩せすぎだと言われて、奈帆人は頬を赤らめる。痩せていることが恥ずかしいのではなくて、服を着ていると分からないようなことを、衛陸が知っていてくれるのが気恥ずかしくも嬉しい。 「まいにちでもおいわいで、いいですよ!」 「はるちゃんと世津さんが来られなかったのが残念だけど」  新婚旅行で大幅に締め切りを遅らせた世津は、その後監視の目が厳しく、編集者の飽田が晴海に頼み込んで監視してくれるようにお願いしている。それで千都の早めの夕食に間に合わないということで、千都は衛陸の家に夕食まで預けられていた。 「エリさんは、どうしてそういうしゃべりかたなのですか?」  出会った時から衛陸は柔らかな女性言葉を喋るので違和感がなかったが、千都は疑問に思っていたようで聞いてみた千都に、衛陸が答える。 「私、海外で育ったでしょう? 母と仲が良くて、日本語でのお喋りは殆ど母相手だったのよね」  そのせいで、自然と母の喋る言葉を覚えてしまったという衛陸。本格的に日本に戻るまで、自分が喋っている言葉が女性言葉だと知らなかったのだという。 「はるちゃんは父と仲が良くて、よく喋ってたからああいう喋りなんだけど」 「エリさんの喋り方は、お母はんの喋り方やったんか」  優しく甘く心地よい響きだと思っていたが、謎が解けたような気持ちで、奈帆人は納得していた。夕食後には千都はお風呂に入って和泉の家に帰って行って、左岸の家には奈帆人と衛陸二人きりになる。 「エリさん、血ぃ、吸うて良い?」  湯上りでほかほかの衛陸に擦り寄ると、脇の下に手を入れられて、膝の上に抱き上げられる。ちゅっと鼻先にキスをされて、間近で見る衛陸の水色の目が悪戯に笑んでいた。 「ここで良いのかしら?」 「べ、ベッドにお願いしましゅ」  興奮のあまり垂れた鼻血をティッシュで押さえて、奈帆人は衛陸に抱き抱えられるようにしてベッドに行った。パジャマを乱して、首筋に歯を立てながら、柔らかな胸を無心で揉んでいると、ふにっと頬っぺたを摘まれる。 「奈帆人さん、私の胸が好きなのね」 「だいしゅきれす! おっぱい!」 「あらあら、鼻血」  垂れる鼻血をティッシュで押さえながら、奈帆人が呻く。 「俺、鼻弱かったんやろか……エリさんにかっこいいとこ見せたいのに、情けない」 「情けなくなんてないわよ。私にそれだけ興奮してくれてるんでしょう? 嬉しいわ」  抱き寄せられて、かぷりと耳を噛まれて、ますます奈帆人の鼻を押さえるティッシュが赤くなる。鼻血が出てしまうせいか、衛陸は奈帆人を寝かせてその上に乗ることが多かった。  何度も体を交わしているので濡れるようになった後孔に、指を差し込んで開いていく姿が卑猥で、奈帆人の興奮も止まらない。荒い息で痛いほど張り詰めて自己主張する中心を衛陸の逞しい太ももに擦り付けると、奈帆人の腰に跨った裸の衛陸がくすりと笑う。 「もう欲しいのね?」 「ん! んん!」  涙目になってこくこくと頷けば、切っ先を後孔に宛がった衛陸が、ゆっくりと腰を落としてくる。飲み込まれる快感に、奈帆人は反射的に腰を跳ね上げていた。 「あっ! あぁんっ! 奈帆人さんったらぁ」 「エリさ、ん、悦(い)いっ! きもちいっ……あぁ!?」  ガクガクと腰を跳ね上げるたびに、中を突かれる衛陸がきゅうきゅうと締め付けてくる。 「で、でるっ! エリさん、でてまうっ!」 「あっ! 奈帆人さん、だめっ、中でっ!」  弾ける瞬間に腰を引いた衛陸に、吹き出した白濁が跨る衛陸の太ももから腹筋までを濡らしてしまう。希少種同士だし、男性同士なので子どもは出来にくいと分かっているが、中で出すのは危険だ。けれど、ゴムは使いたくないという奈帆人の我儘で、できる限り外で出すようにはしているのだが、大抵間に合わず衛陸の体にかけてしまう。  その様子があまりにもエロくて、奈帆人の鼻血も止まらないし、中心も元気になるし、交わりは深く、夜更けまで続いた。 「昨日のエリさん、エロかった……」  大学に行く奈帆人は、自分が蕩けた顔をしているなどという自覚はない。そもそも、人間が怖いので、周囲にあまりひとを寄せ付けるタイプではないのだ。それなのに、なぜか授業の後で奈帆人は妙な男に絡まれていた。 「お前、妙にエロい雰囲気があるよな。恋人とかいるのか?」 「そんな個人的なこと、お前には関係あらへんやろ」  こんな男無視してさっさと家に帰りたい。家に帰ったら衛陸が待っていてくれて、一緒に晩御飯を作るのだ。まさに新婚生活。  甘い新婚生活が頭をよぎったせいか、表情が緩んでいたのを、男は誤解したようだった。 「そうやって自分に興味を持たせようって魂胆だな。分かった、俺の名前は……」 「ぎゃー!? 触らんといて!?」  腰を抱いて顔を近づけて来る男に、奈帆人は悲鳴を上げる。奈帆人の言葉を聞いていない男に尻を揉まれて、思い切りカバンで殴って泣きながら走り去った。 「こ、こあかった……」  大学入学早々、なんであんな変な奴に絡まれるのだろう。ぐすぐすと泣きながら帰ってきた奈帆人は、家のリビングに衛陸の姿がないことに気付いて、部屋を覗いてみた。仕事をしているかと思えば、そこにもいない。  買い物にでも出かけたのかとがっかりしつつ、ダメ元で覗いた寝室で、衛陸は眠っていた。 「エリさん、どこか悪いん?」  起こしてはいけないかもしれないと思いつつも、心配で声をかけると、衛陸が水色の目を開く。 「仕事してたら眠くなっちゃって、お昼寝してたのよ。どこも悪くないわよ。奈帆人さんも眠いんじゃない?」  そういえば、昨夜はとても盛り上がってしまった。奈帆人がへろへろで蕩けているのだから、衛陸も多少は疲れていたのだろう。お布団を持ち上げて招かれて、奈帆人は大喜びでそこに潜り込んだ。  暖かくて衛陸の匂いに包まれる。ぎゅっと奈帆人の細い体を抱き締めていた衛陸だが、その眉間にぴしりと皺が刻まれる。何事かと目を丸くしていると、強く抱き締められて、ぐりぐりと顔や胸を擦り付けられた。  何という極楽。  衛陸自身が豊かな胸を奈帆人に押し付けて、擦り付けてくれる。 「ど、どないしたん?」  嬉しさに笑み崩れる奈帆人に、衛陸の表情は硬かった。 「嫌な臭いがしたのよ。私以外の男の臭いが」  自己申告で本性をまだ見せてもらってはいないが、衛陸は狼である。嗅覚は人一倍鋭いのだろう。 「実はな、変な男が大学で絡んで来てん」  めっちゃ怖かったけど、エリさんに抱き締められて元気になった。  そう自己申告すると、衛陸は奈帆人を抱き上げてバスルームに向かった。 「嫌な男の臭いは落としてしまいましょう」  奈帆人さんには、私の匂い以外付けちゃダメ。  その独占欲が嬉しくて、奈帆人はバスルームで衛陸に髪まで洗われて、幸せにほかほかになっていた。

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