26 / 30

新しい家族 2

 臆病な奈帆人の心を溶かしてしまうほど、衛陸は小さな子どもにも優しく、決してその気持ちを蔑ろにしたりしない。真祖を譲られるだけの力はある千都に捕まってしまうと、蝙蝠にされて真那に貢がれる奈帆人は、その度に衛陸に助けを求めた。 「まなくんのほしいものは、ぜぇんぶ、ちづがあげますからね」 「ちー!」  お喋りが少しできるようになった真那は、千都の名前を呼んで喜んで蝙蝠の奈帆人の羽を広げたり、お腹を吸ったりする。 「やぁやー! エリしゃん、たしゅけてー!」 「へんなものをおくちにいれちゃだめですよ。ぺっ、してください」 「実の兄を変なもん扱いすんなやー!」  リビングに響く奈帆人の悲鳴に、衛陸が部屋から降りて来てくれた。仕事中でも、奈帆人が子どもたちを見ているときは、衛陸は奈帆人を気にかけてくれている。涎でびちょびちょになった奈帆人は、無事に衛陸の手で解放された。 「千都さんの力なんでしょうね、世津さんも奈帆人さんが蝙蝠でも服を毟れたから」  なりたくて蝙蝠になっているのではないことも理解してくれて、奈帆人は人間の姿に戻って衛陸の膝に縋り付いて泣いてしまった。 「俺、ちぃちゃんやせっちゃんより弱いから、どうしても、オーラに当てられるとダメやねん」 「世津さんはよっぽどのことがないとしないでしょうけど、千都さんには困ったものねぇ」  膝に縋る奈帆人を撫でながら、衛陸はため息をつく。吸血鬼の真祖を譲られる力があるとはいえ、千都は遊びたい盛りのまだ5歳。その伴侶の真那に至っては、もうすぐ2歳になるくらいなのだ。千都と真那にとっては遊びだが、奈帆人にとっては本能的に生命の危機を感じる行為だと理解してもらわなければいけない。 「話して分かるかしら」  真面目に話し合いの場を持とうとする衛陸に、すんすんと洟を啜って、奈帆人は首を振った。 「ちぃちゃんも、小さい頃に蝙蝠の俺を握って、吸ったりしよった。でも、3歳近くになったらせんようになった。やから、少しだけの辛抱なんや。それに、これくらいでめげてたら、いつか赤さんができたときに、俺、立派なお父ちゃんになれへんかもしれん」  兄である奈帆人は、本性が猫の真那ほど執拗にではなかったが、千都が蝙蝠姿を握って振り回したりして遊んだのを経験している。育つに連れてそういうことはしなくなるものだし、甘噛みまではされるが、投げたり振り回したりしていた千都よりも真那の奈帆人の扱いは、まだマシに思えた。 「赤さん……羨ましかってん」  晴海の妊娠を聞かされて、奈帆人が最初に思ったのは、「羨ましい」ということだった。学生で19歳になったばかりで、収入もない奈帆人が、すぐには衛陸と赤ん坊を望むことはできない。人外同士で種も違うので、赤ん坊は恐らくできにくいであろうことが予測される衛陸と奈帆人。就職して生活が落ち着いてから子作りを始めても、なかなかできないかもしれない。 「はるちゃんの赤ちゃん、可愛いでしょうねぇ」  本当は自分も少し羨ましかったのだとぽつりと呟く衛陸に、奈帆人は膝から勢いよく顔を上げた。水色の目はうっとりと赤ん坊を想像して微笑んでいる。 「作らへん?」 「もう、奈帆人さんったら、ダメよ」  勢いに乗って言ってはみたものの、鼻を摘まれて宥められて、奈帆人はがっくりと肩を落とした。寿命の長い吸血鬼からしてみれば、大学の6年間は決して長いものではないが、まだ19年しか生きていない奈帆人にとっては人生の三分の一近くの時間である。それを待つのは、少しばかりつらくもあった。  涙目になって衛陸を見上げる奈帆人を、衛陸の逞しい腕が軽々と抱き上げてしまう。 「おやすみなさい」 「しゃーい」  今日は威月と真和と千都と真那でお風呂に入っていた四人がお休みの挨拶をして、部屋に行くのに手を振って、そのまま衛陸は四人が出た後で湯気がもうもうと立ち込めるバスルームに入っていった。  そういえば、奈帆人のお腹は、真那に吸われたのでびちょびちょのままである。 「頑張る奈帆人さんには、ご褒美をあげないとね」  5歳の千都やもうすぐ2歳の真那の暴挙にも耐えることを決めた奈帆人に、衛陸がご褒美にとお風呂で体を洗ってくれる。髪まで洗ってもらって、奈帆人は気持ちよくてうっとりと湯船に座っていた。  手早く自分の体と髪を洗った衛陸がバスタブに入ると、その背中にぴたりと張り付く。丸い発達した白い双丘に、猛った奈帆人のものが硬く当たって、衛陸は身をよじった。 「ダメだって、言ったでしょう?」 「エリさんが魅力的すぎるんやもん!」  狭いバスタブの中では逃れることができず、衛陸は後ろから回された手で胸を揉まれて、熱い吐息を零す。くにくにと胸の尖りを捏ねながら、奈帆人の唇が衛陸の首筋に這った。肩の上辺りの首筋に噛み付かれて、衛陸は恍惚とした快感に襲われる。  吸血鬼が血を吸う行為は、相手が嫌がらないようになのか、痛みはほとんど感じず、運命の相手だと快感まで覚えてしまうのが厄介だった。 「奈帆人さんったら」  強く首筋を吸い上げて、吸った方の奈帆人も快感に震えている隙に、衛陸は素早く振り向いて、奈帆人の腰に跨った。激しい動きに、バスタブから湯が溢れて零れる。 「悪い子には、お仕置きをしないといけないわね?」  悪戯に微笑みながら、衛陸は奈帆人の猛った中心を、双丘の狭間に挟み込んだ。そのままずりずりと腰を上下させると、双丘の狭間で擦られた奈帆人の中心が弾けそうになってくる。 「やぁっ! エリさんに入れたいぃ!」 「ダメって言ったでしょう?」 「ひぁっ! 出てまう! 出るぅ!」  絶頂の近い奈帆人が、手を伸ばして衛陸の胸を縋るように揉むのも、衛陸を興奮させるだけだった。ばしゃばしゃとお湯を跳ねあげながら腰の動きを激しくする衛陸に、奈帆人が敵うわけがない。 「あぁぁぁっ! で、でてもたぁ!」  吹き上げた白濁が双丘と背中まで熱く迸って濡らすのを、衛陸は心地よく感じていた。 「ふぇ……ごめんなしゃい……もうせぇへんから、ちゃんと、入れさせてぇ」  泣き出した奈帆人に、衛陸は体を流してお湯を抜いて、バスタブから奈帆人の体を抱き上げる。 「続きはベッドで。じゃないと、逆上せるわ」 「ひゃい」 「ちゃんと避妊具(ゴム)付けたら、入れさせてあげる」 「ひゃい」  涙と共に鼻血も出てしまった奈帆人を脱衣所で拭いて、鼻を押さえて、バスローブで包んで、衛陸は寝室に連れて行く。  改めてベッドにシーツに奈帆人を横たえると、奈帆人が避妊具(ゴム)を付けている間に、衛陸は後孔に指を差し込んで拓いていった。両思いになってから何度もそこを使っているので、衛陸の体は奈帆人の雌になっているのだろう、そこは濡れるようになっている。  わざと聞かせるようにぐちゅぐちゅと指を出し入れしていると、奈帆人の鼻を押さえるティッシュが真っ赤に染まって、中心も力を取り戻してそそり立ってきた。 「エリさんのここ、入りたいぃ」 「あぁっ! 奈帆人さんっ!」  手を伸ばした奈帆人がぐにぐにと双丘を揉みしだくのに、衛陸は濡れた指を引き抜いて、腰をくねらせた。 「いい子には、ご褒美をあげないといけないわよね?」  尻を奈帆人の方に向けるようにして、くぱりと双丘を両手で割って、後孔を露わにした衛陸に、荒い息で奈帆人がのしかかってくる。ひたりと切っ先が当てられて、一気に貫かれるのに、衛陸は背を反らせて快感を逃した。内壁が奈帆人を締め付けて、先ほどの挟んで奈帆人を絶頂させた行為で、若干焦れていた衛陸の中も、絶頂しそうになっている。 「エリさん、止まらへん、おかしなるぅ」 「あぁっ! 悦いわよ、奈帆人さん、もっとキて?」  貪るように腰を動かして内壁を擦り上げる奈帆人の中心に、衛陸も中での絶頂を迎えていた。その締め付けに、奈帆人も中で果てる。  声もなくはぁはぁと荒い息で肩口に顔を埋め、背中に体を預ける奈帆人の髪を、労わるように衛陸が撫でた。 「ちぃちゃん、ある程度は俺もあそんだる。でも、痛いことと、嫌なことは、せんとってって言うから、真那くんにもちゃんと教えてな?」  蝙蝠で耐えた後には衛陸のご褒美が待っている。  それが分かってからは、奈帆人も少しは余裕を持って千都と真那と真和と遊べるようになった。 「俺の赤さんは猫やないもん……」  できれば衛陸に似た狼の子で。  それだけが奈帆人の救いのようだった。

ともだちにシェアしよう!