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17.二人とも初めてで

 二十一歳の男性と二十八歳の自認男性がドラッグストアでコンドームとローションを選んでいる。ドラッグストアの店員にしてみれば、日常の風景かもしれないが、カイとフェリアにとっては真剣だった。 「物は値段だけの価値があるという。一番高いのにしよう」 「薄々って書いてありますよ!? 破けたらどうします?」 「あー、これサイズあるのか。サイズ、どうする?」 「えっと、買ったことないんでよく分かりません」  話し合った結果として、カイは筒状になっている果物の描かれた容器に入っている、その筒の太さのブツならば入るというコンドームを選んだ。 「温感タイプは好き嫌いがあるって聞いたことがある。普通のローションにする」  フェリアはボトルに入った普通のローションを買うことにした。  レジでカードで支払いを済ませるフェリアに、カイが小さく謝る。 「何もかもフェリア様に払わせてしまってすみません」  前に行った店の支払いも、今日の料理の材料費も全部フェリアが出していたが、それは年上で働いているので当然とフェリアは思っていた。 「カイが警察官になって、給料をもらったら、期待してるよ」 「それまで待ってくれますか?」 「それまで付き合いが続いてたらな」  今日それが壊れるかもしれないし。  ぽつりと呟くフェリアに、カイが身を乗り出す。 「そういうことはありません! 俺はフェリア様が……」 「落ち着け。店内で大声を出すな」  恥ずかしいと言って、フェリアはカイを遮った。  車に乗ってマンションまで戻る。マンションの立体駐車場に車を停めて、エレベーターでマンションの最上階まで上がる。  カイはフェリアのマンションが立派で広いのに驚いていたようだが、生前分与で母からもらった財産を全部つぎ込んだ結果だった。  プリンセスと暮らすに当たって、いいマンションはなかなか見つからなかった。  老猫になったとはいえプリンセスはマンションを傷付ける可能性もあるし、走り回ることもあるかもしれない。ペット可でプリンセスがゆったり暮らせる場所と考えると、フェリアは思い切ってマンションを買うしかなかったのだ。  そのプリンセスもいなくなってしまって、広いマンションに一人きりになったフェリアを心配して、ヴァルナとアスラが来てくれたが、フェリアの心は埋まらなかった。  今はカイがいる。 「警察学校の寮に外泊届を出して来ました。明日は休みだし、フェリア様とゆっくり過ごせます」 「俺も、明日は休むように連絡しておこう」  こういう中途半端な体だから、初めての性交の後で自分がどんな風になっているか想像がつかないというのがフェリアの正直な感想だった。有給休暇は全然使っていないので余っているはずだ。  警察ラボに連絡すると夜勤の上司が有給休暇の申し出を受け入れてくれた。 「仕事はいいんですか?」 「気になることはあるけど、俺以外でもできることだから平気だよ」  前の強盗事件で使われた銃の線条痕と一致した弾丸の件に関しては、アージェマーとパーシヴァルが上手くやってくれるだろう。  部屋に戻るとフェリアはカイをバスルームに押し込んで、自分もバスルームに入った。  脱衣所で服を脱ぐカイの褐色の身体に見惚れながら、フェリアも服を脱いでいく。染色体の問題で普通の成人男性よりも華奢な作りになっているが、フェリアは身長も百八十センチ近くあったし、瘦せ型の男性には見えた。  服を脱ぎ捨てたカイの股間を確認して、フェリアは二度見してしまう。 「俺のは、普通よりも小さかったんだな……」 「い、いや、俺のが大きいんだと思います。もう勃ってるし……俺の方が体格がいいし」  検死の場面で見るブツというのは大抵萎れて小さい。だからフェリアも自分の中心が標準なのだと思っていたが、カイの中心を見るとあまりに立派でやはり性別がどちらともあるというのは、どちらとも中途半端なのかと考えてしまう。 「フェリア様の部屋のお風呂広いんですね。シャワーとバスタブが別にある。トイレも別だ」 「実家がそうだったんでマンションを買ったときにリフォームしたんだ。広い風呂の方が寛げるだろう」 「これって、確かジャパニーズスタイルですよね」  靴を脱いで部屋に上がるのも、風呂とトイレが別になっているのも、シャワーとバスタブが別になっているのも、言われてみればジャパニーズスタイルだった。  バスタブには温かいお湯がたっぷりと張られている。  シャワーで順番に身体を流し、バスタブに二人で入ると、広いとはいえ膝がぶつかり合った。カイが落ち着かない様子なのは、中心が欲望を湛えてもう勃ち上がっているからだろう。  手を伸ばしてそこに触ると、びくりとカイの体が震える。 「フェリア様、煽らないでください」 「硬い……それに大きい。これ、入るのかな?」 「入らなかったら、無理に入れたりしませんからね?」 「女性器が成熟してるか分からないんだ。俺、生理も精通も来たことがなくて」  どちらとも持っているからホルモンバランスの問題で、どちらとも成熟していない可能性があると説明すると、カイはフェリアの手を握る。 「無理だったらすぐに言ってください。俺はフェリア様がこうして受け入れてくれようとするだけで嬉しいんです」 「でも、これ、どうするんだ?」 「それは……」 「後ろなら入るかもしれないんだよな……」 「そこまで無理に考えないでください!」  気を使われているのだが、ギンギンに勃起させている状態でそれを言われても説得力がない。  フェリアは先にバスタブから出てバスタオルで身体を拭いて、バスタオルを腰に巻き付けた。後から出て来たカイにはバスローブを貸す。  二人で洗面所に並んでドラッグストアで買って来た歯ブラシで歯を磨いた。  ベッドルームに移動したフェリアは特に電気を消すつもりはなかった。カイにはちゃんと自分の身体を見てもらって、その上で抱くか判断してもらいたかった。  ベッドに横たわるフェリアにカイが覆いかぶさってくる。  唇を塞がれて、フェリアはカイの舌を口の中に招いた。  舌を絡めてのキスは初めてだが、嫌悪感は全くなく、カイの舌は歯磨き粉のミントの香りがした。  カイの唇が徐々に下に降りて行って、首筋を通ってフェリアの胸に到達する。乳首を舐められて、フェリアは「あ」と声を上げてしまった。 「嫌でしたか?」 「気持ちよかった、のかな?」 「続けますよ?」  下半身は苦しいはずなのにカイはフェリアを気遣ってどこまでも丁寧にことを進めていく。  カイの指がフェリアの女性器に触れたところで、フェリアはそこが滑りを帯びているのを感じた。 「濡れてる?」 「濡れてますね。でも、痛くしたくないから、ローション足しましょうね」 「慣れてるな」 「慣れてないですよ! 俺だってギリギリなんですからね!」  切羽詰まった声がカイから出てフェリアは笑ってしまう。 「楽しいものなんだな」 「え?」 「カイとのセックスは楽しい」  笑いながら言うと、カイがぐっと喉を鳴らした。 「俺も楽しいけど、正直、早く入れたい……もう、出そう」 「いいよ、おいで、カイ?」 「フェリア様?」 「痛くても構わない。受け止めてあげる」  両腕を広げてカイに抱き付いたフェリアに、カイが下半身を押し付けて来る。コンドームをつけた中心がフェリアのローションで濡らされた場所に入って来る。  かなりの圧迫感と大きさに息が詰まったが、痛みは感じなかった。 「さすが、に、全部は、入らないか……」 「フェリア様の、せいじゃ、ないです。痛くないですか?」 「痛くはない。なんだか不思議な感じだ」  色気も何もない性交だがフェリアは不思議と満足感を覚えていた。未成熟なフェリアの女性器でもカイを受け入れることができた。 「もう無理……ごめんなさい」 「謝らなくていい……あっ! ひぁっ!」  腰を動かすカイに、内壁を擦られてフェリアは妙な声が出てしまう。内壁を擦られるたびに、そこが熱くなるようで、体中が心臓になったかのように脈打っている。 「あっ! あぁっ!」 「フェリア様……フェリア様、愛してます」 「んっ! あっ! 俺も、カイ」  褐色の逞しい背中に腕を回して耳元で囁いた瞬間、フェリアの中でカイが弾けた。  達して大きさを減らしたカイがずるりと中から抜けていくのが、少し残念に思っていると、カイが悲鳴を上げる。 「フェリア様、出血してる!」 「え? 全然痛くないけど?」 「コンドームに血が!」  慌てるカイにフェリアは思い至ることが一つあった。 「もしかして、初潮?」  これまでフェリアは男性器も女性器も使ったことがなかった。使うことがなかったのでどちらも機能を持たなかったのかもしれない。  カイと性交したことによって、フェリアの女性の部分が目覚めた可能性はある。 「初潮って、生理!? 車の鍵、貸してください! 俺、ナプキンと鎮痛剤買ってきます」 「お、おう!」  さすが姉妹がいるカイである。判断が早い。  このまま続行してもフェリアは全く構わなかったが、カイはそんなことはしなかった。  素早く着替えて車でドラッグストアまで行って、生理用のナプキンと鎮痛剤を買って来てくれる。 「これから痛くなるかもしれないから、鎮痛剤と水を枕元に置いておきましょうね。替えのシーツありますか? シャワー浴びてる間に替えておきます」 「シャワーは一緒に浴びよう。シーツも一緒に替える。別に俺は身体も全然つらくないから平気だよ。カイが優しくしてくれたから」  微笑んで言えばカイは「分かりました」と大人しく従ってくれた。

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