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26.カウンセリングの真相
最初に来たイタリアンのお店に行って、カイとフェリアは前のとは違う具の包み焼きピザとパスタを頼んだ。
シェアするときにはカイが取り分けるのが二人の中では決まりのようになっていた。
取り分けたピザとパスタを食べながら、フェリアがふとカイの顔を見詰めた。
「カイ、君は本当はカウンセリングは必要なかったんじゃないか?」
図星を突かれてカイは思い切り咽てしまう。咽るカイの様子を見てフェリアは全てを悟ったようだった。
「二十一歳の坊やだと思って、俺もガードが下がってたかもしれない」
「ふぇ、フェリア様が好きでっ! それで! どうしても、もう一度会いたかったんです!」
げほげほと咽ながらも必死に説明するカイの様子に、フェリアは苦笑している。
聡いひとだからいつかはバレると思っていたが、こんなにも早く発覚するなんて、カイにとっては予想外だった。
「落ち着いてアイスティーを飲め。別に怒ってない」
「怒ってないんですか?」
「ちょっと、してやられたとは思ってるけど、カイと過ごした時間は心地よかったし、俺はカイと話すだけで給料もらってたわけだし」
怒っていないと言われてカイは胸を撫で下ろす。仕事に誇りを持っているフェリアからしてみれば、それを口実に近寄ろうとしたなんて許せるはずがないだろう。
それを許してもらっているのも、フェリアの心が広いだけだ。
「カウンセリングの途中から俺も食事を一緒にしたり、医者らしくないことはしてたし、お互いさまってことにしよう」
「フェリア様が寛大でよかったです」
「『様付け』が戻ってる」
「あ、すみません」
あまりのことに「フェリア様」呼びに戻ってしまったが、カイは気を付けてフェリアの名前から「様」を外すようにする。
心の中では「フェリア様」と呼んでいるし、他人と話すときには「フェリア様」と言っているし、本人の前でだけ納得するように「様付け」を辞めたのだが、美しくて寛大で聡明なフェリアはどうしてもカイの中では崇め奉る存在だった。
「もうすぐ年度末で、俺は進級します。その前に休みがあるんですが、フェリアと一緒に過ごしていいですか?」
「部屋の鍵を作っておくよ。車は一台しかないんだけど、平気か?」
「近くのドラッグストアくらいまでは歩いて行こうと思えば行けますし、コンビニもありますし、平気です」
警察学校の寮の近くにはほとんど店がないので、夜中にお腹が空くとツグミと一緒に寮を抜け出して数キロ歩いてスーパーまで行くこともあった。コンビニはあるのだが、学生の小遣いでは高く感じられるし、サンドイッチショップのメニューも高くて食べ飽きてしまっている。
その話をフェリアにすると、フェリアは軽く頷いて理解を示してくれた。
「カイがいる間は、冷蔵庫はいつも満タンになっているようにしよう。スナック菓子とかも欲しいのがあったら言ってくれ。買っておく」
「ポテトチップスとか、スナック菓子、結構食べるんですよ」
「ポテトは野菜だからサラダとか思ってるんじゃないなら、いいんじゃないか?」
ジャガイモは野菜だからサラダ代わりにポテトチップスを食卓に出す家はある。カイの家もフェリアの家もそういう家ではなかったが、笑いながら言ったフェリアに、「そこまで思ってません」とカイは返事をした。
「お医者さんからの説明で、自然分娩は無理かもしれないっていうのがあったんですが、あれ、どうしてなんですか? 理由を聞こうと思って、タイミングを逃してしまって」
カイの問いかけにフェリアがエメラルドグリーンの目を瞬かせた。
「そうか、カイは説明を受けてなかったんだな。俺は医者でこういう仕事だからレントゲン写真を見たら分かったんだが、骨盤が俺は男性寄りの形をしているんだよ」
「つまり、骨盤の形が違うから産めないと?」
「そうだよ。女性の骨盤は出産に当たって開くような作りになっているが、男性の骨盤にはそれがない。俺は男性寄りだから、骨盤が開かなくて自然分娩は無理だという判断になったわけだ」
子宮や卵巣の働きは投薬治療で何とかなったのだが、生まれながらの骨格は変えることができない。フェリアの説明にカイは理解する。
「それでも今の帝王切開は医学も進んでますし、無痛でできるようにもなったという話だし、フェリアの出産は問題ないですよね」
「出産はどれだけ医学が進んでも命懸けであることには変わりないからな。それでも授かったら俺は産むぞ」
できれば安心させるような言葉が欲しかったのだが、フェリアは自分の命を懸けてでも産むと宣言している。フェリアに先立たれてしまったら、子どもがいたとしてもカイはその後の人生は絶望に包まれそうなので、できれば安全に出産をしてほしかった。
「そんな顔するな。俺は頑丈なんだ。きっと大丈夫だ」
それにまだ妊娠してない。
頬を撫でられてフェリアに言われて、カイは自分がどんな顔をしていたのかと恥ずかしくなる。見つめてくるフェリアのエメラルドグリーンの目を見ていると、大丈夫かもしれないと思えるのが不思議だ。
「仕事を一か月休むのはつらいなー。一週間くらいでどうにかならないかな」
「さすがに一週間じゃどうにもならないですよ。医者が安静にしておくように言っている期間は安静にしておいてください。一か月でも俺は心配なのに」
「カイは心配性だな。案ずるより産むがやすし。産んでみないと分からないけどな」
そのためにはまずは子どもができるかどうかだと言われてカイはそわそわとしてしまう。
明日は警察学校があるのでフェリアの部屋には泊まれない。
フェリアを抱きたいのにそれは週末までお預けとなってしまう。
「フェリア、キスしたい。抱きたい。このまま別れたくない」
料理も全部食べ終わっていたが、どうしても別れがたい思いで席から立ち上がれないカイに、フェリアが艶っぽく唇を笑みの形にする。
「ちょっとだけ、俺の部屋に寄っていくか? ホテルは散々鑑識で入って、どれだけひとの体液や微物が残ってるかを知ってるから行きたくないんだよな」
「い、いいんですか?」
「手加減しろよ? 俺も明日は仕事だ」
甘えるようなことを言ってしまったがそれを受け入れられてカイは目を輝かせる。
会計を支払って、すぐにフェリアの部屋に行って、玄関の戸を閉めた瞬間には、カイは我慢できなくてフェリアを壁に押し付けていた。
廊下の壁に押し付けられたままで、服を脱がされていくフェリアだが、抵抗しないのだから同意だと思っていいのだろう。
うなじに軽く歯を立てて、綺麗な白い背中に舌を這わせて、女性器に触れると濡れているのが分かる。初めてのときに筒状のものに入ったコンドームがかなりの数があったので、その数枚をカイは手元に持っておいたことを幸運に思う。
「フェリア、もう我慢できない。入れていいですか?」
「がっつくなぁ。いいよ、おいで、カイ」
苦笑しながらフェリアが答えるのに、カイはズボンと下着を下げて自分の中心を取り出して、コンドームを被せてフェリアの中に押し入った。後ろから挑むのは初めてで、いつもと体勢が違うのでフェリアが息を詰めているのが分かる。
今日は持っていなかったのでローションも使っていない。
「んっ……ひぁっ!」
「痛い、ですか?」
「ちがっ! あぁっ! 気持ちいい」
痛いわけではないと分かってカイはホッとしてフェリアの腰を掴んで突き上げる。突き上げられるたびにフェリアがなまめかしい声を上げる。
「あっ! あぁっ! すごいっ!」
「んっ! フェリア、そんなに締めないで……あっ!」
狭くて熱いフェリアの中に締め付けられて、カイも追い上げられていく。
乱暴ではないようにしたいのに、制御ができず強く突き上げてしまうカイを、フェリアは責めることなく、受け入れてくれている。
「出るっ! あぁっ!」
「んっ、あっ!」
どくどくとコンドーム越しにフェリアの中に放ってカイは、長く息を吐いた。
すっきりとしてから、玄関を入ってすぐの廊下でフェリアを壁に押し付けて、フェリアの背中には赤い痕がたくさん残っていて、手も洗わず、歯も磨かずにフェリアを貪ってしまったことに気付く。
「す、すみません! 俺、つい……」
「悦かったよ? カイの余裕のない姿も可愛かった」
服を着ながら振り向いてキスをするフェリアに、カイは恥ずかしさに俯いてしまう。
「どうする? 帰る時間までもう少しあるだろう?」
「いいんですか?」
「次は、軽くでもシャワーを浴びてからにして欲しいけど」
潔癖症ではないけれど、できれば清潔にしておきたいというフェリアに、カイは大人しくバスルームにフェリアと共に向かった。
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