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28.新しい家族

 休みの一日目、フェリアとカイは家具屋に行った。  テーブルと椅子を揃えるつもりだったのだ。  テーブルの大きさで悩んでいると、カイは一つのテーブルに目が行った。  普段は四人用のテーブルなのだが、留め具を外して両側から引っ張って板をはめると、六人から八人用に伸ばせるものだった。 「伸縮するテーブルですよ。頑丈そうだし、これいいんじゃないですか?」 「デザインもシンプルでいいな」  木のテーブルは濃い色をしていて、フェリアの部屋に合いそうだった。  最大限に広げた大きさを計って、部屋に置けるか確かめてからそのテーブルをチェックする。  椅子に関してはフェリアが気に入ったものがあったようだ。 「座るところと背もたれが皮でできてるんだ。座り心地もいいと思うよ」  試しに座ってみると、確かに座り心地はいい。けれど、カイには思うところがあった。 「フェリアは今はプリンセスを失ったばかりだし、そういうことは考えられないのかもしれません。俺が失礼なことを言っているなら許してください。でも、もしまた猫や犬を飼うことがあったら、皮の製品は噛んだり引っ掻いたりされる可能性がないですか?」  長く使うつもりならばできるだけシンプルなものがいい。  カイの言葉にフェリアも気付いたようだ。 「プリンスもプリンセスも、噛み癖も引っ掻き癖もなかったけど、次に猫や犬を迎えたいと思ったときに、皮だと確かに噛まれたり引っかかれたりしたら困るよな。分かった、シンプルな木だけの椅子にしよう」 「クッションも一緒に買いましょうよ。クッションで座り心地が変わりますから」  クッションならば取り換えも利くと提案するカイに、フェリアはクッションの売り場を見に行っている。  動物の刺繍の入ったクッションを見て、フェリアがラグドールのクッションに釘付けになっているのに気付いてカイはそれを手に取った。 「この顔の模様、手足の模様、プリンセスにそっくりだ」 「これ、在庫がないか確かめましょう。椅子は四脚はとりあえず買うから、四つはいりますね」 「いや、椅子は六脚買っておこう。こういうのは後から買い足すときに在庫がなくて椅子の形が合わなくなることがあるんだ」  話し合いながら店内を回っていると、イルカの形をした抱き枕が目に留まった。  フェリアは欲しそうにしていることにカイは気付いているが、フェリアの部屋のクィーンサイズのベッドではカイとフェリアが寝るだけでいっぱいで、抱き枕までは置けそうにない。 「あの抱き枕……」 「気にしないでくれ。可愛いと思って見てただけなんだ」  軽く言って視線を外すフェリアに、カイはどうにかしてあの抱き枕を買ってやりたかった。  方法を考えたカイは、フェリアに提案する。 「ソファ、買い足しませんか?」 「あのソファだと狭いか?」 「ベッドにもなるソファがあれば、フェリアか俺が風邪を引いたときにでも、別々に寝られるじゃないですか」  それに今フェリアの部屋にあるソファは、カイとフェリアが二人同時に使うには若干狭い。くっ付けるので嫌ではないのだが、ゆったりと二人で座れるソファがあってもいいはずだ。 「そのソファにあのイルカの抱き枕を置きましょう」 「それじゃ、そうしようかな」  支払いは全てフェリア持ちなので、大きな買い物をしてしまうことに躊躇いがないわけではなかったが、これからカイとフェリアが暮らしていく環境を整えるためと思えばカイも遠慮なく言うことができた。  フェリアはカイのために衣服を入れるケースも買ってくれていた。組み立てる前のそれは車に乗るので、トランクに入れておく。  続いてカイとフェリアは郊外の大型のスーパーに行った。食料品を買い込んで、マンションに戻る。 「猫と犬を新しく迎えるか……考えてなかったな」 「今は考えられなくて当然ですよ」  昼食の準備をしながらフェリアが呟くのに、カイはキャベツをみじん切りにしながら答える。みじん切りのキャベツは塩コショウとカレー粉で炒めて、トースターで焼いたコッペパンにソーセージと一緒に挟んで、ケチャップで味付けすればホットドッグになる。  お行儀が悪いと分かっていても、トースターから取り出した熱々のホットドッグに立ったままかぶり付いて、コーヒーを飲んで昼ご飯を終えてから、フェリアとカイはソファで寛いだ。 「職場でカプセル式のコーヒーメーカーを導入しようかって話になってるんだ」 「いいですね。あれ、一杯ずつ淹れられて、便利ですよね」 「うちも買おうかな」 「いいんじゃないですか? フェリア、コーヒー好きだし」  今は電動のコーヒーミルで豆を挽いてフェリアが丁寧にコーヒーを淹れてくれているが、カイはフェリアの手間を減らせるのならばカプセル式のコーヒーメーカーの導入にも賛成だった。  何かを言おうとして躊躇うように口を閉じたフェリアの頬に手を添えて、カイがその唇にキスをする。頬を撫でて、口を離してからカイはフェリアに問いかけた。 「何か言いかけましたか?」 「俺は薄情かもしれない」 「あなたは薄情なんかじゃないですよ。情に厚いひとです」 「カイが新しく猫と犬を迎えるって言ってから、そのことしか頭になくなってる」  フェリアは新しい猫と犬を迎えたがっている。  それが分かればカイのすることは一つだけだった。 「犬と猫の保護施設に連絡を入れましょう。フェリアを待ってる子がいるかもしれない」 「いいのかな。プリンセスが死んだすぐ後で」 「プリンセスのことはずっと愛し続けていくんでしょう。プリンスもそうだったように。だからといって、新しい子を迎えてはいけないということはないと思います」  携帯端末で犬と猫の保護施設のサイトを開くと、殺処分が間近に迫っているという犬と猫が表示される。  フェリアに見せてみると、フェリアはすぐにソファから立ち上がった。 「このジャーマンシェパードと、メインクーン、殺処分の期限が今日だ! カイ、迎えに行っていいか?」 「もちろんです!」  車を運転している間も、フェリアはずっとそのジャーマンシェパードとメインクーンが既に殺処分されていないか心配だったようだ。法定速度ギリギリで運転して、辿り着いた処分場で、フェリアは職員に自分の身分を明かして犬と猫を引き取りに来たのだと話す。 「俺は、フェリア・ガーディア。職業は警察ラボの職員。殺処分になるはずのジャーマンシェパードとメインクーンを引き取りたい」 「どちらもひとに慣れていますが、とても大きい種類ですよ? 飼育環境はできていますか?」 「以前にボルゾイとラグドールを飼っていた。大きい種類には慣れている」  マンションがペット可かどうかなど審査を受けて、やっと会わせてもらったジャーマンシェパードとメインクーンは酷く痩せていた。  フェリアが手を出すと体を擦り付けて来る。 「ジャーマンシェパードは二歳です。多頭飼いが崩壊してこちらに連れてこられました。メインクーンは八歳です。飼い主が高齢で施設に入ることになって、飼えないので親戚がこちらに持ち込みました。二匹とも一度人間に裏切られています。二度目はないようにお願いします」  殺処分をする方も、できれば殺したくないと思っていた。引き取ってくれてよかったと言われて、フェリアは大事に二匹を抱き締めた。  メインクーンはプリンセスが使っていた籠に入れて、ジャーマンシェパードはそのまま車に乗せる。 「二匹の生活用品も買わないと」  フェリアがペットショップに寄ってジャーマンシェパードとメインクーンの生活用品を買っている間、カイは車の中で二匹と一緒に待っていた。 「フェリア様の家の子になれてよかったな。お前たちは幸せだぞ」  呟くカイに、後部座席に乗っているジャーマンシェパードが尻尾を振り、メインクーンは「なぅん」と鳴いていた。

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