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29.ルーナとミナ
ジャーマンシェパードには「ルーナ」、メインクーンには「ミナ」という名前がついた。
どちらとも雌で、避妊手術がされていなかったので、フェリアとカイで話し合ってどうするか決めることにした。
「ルーナはまだ若いから一回だけ出産させて、その子どもも育てたい。ミナはこの時点でそこそこ年齢が上だから、避妊手術を受けさせたい」
「犬は多産だから何匹生まれるか分かりませんよ?」
「ちゃんと貰い手も探す。責任をもってブリーディングする」
きちんとフェリアの気持ちさえ決まっていれば、カイは反対しなかった。
幸い二匹の相性はよく、仲良く舐め合っているので、フェリアもその点に関しては心配はしていなかったが、心配なのは健康面に関してだった。
二匹ともすごく痩せているし、毛並みもごわごわだ。まずは病院に連れて行くところからだった。
病院で診てもらった限り、栄養失調の面はあっても、それ以外で悪いところはないと分かって、ミナが家に慣れてからフェリアは避妊手術をしてもらえるように病院に予約を取った。
ルーナは大型犬なので、ある程度毎日運動が必要だが、外に出ることを怖がって、散歩に連れ出しても走ろうとしないのが気にかかっていた。
保護施設では多頭飼いが崩壊したと言っていた。檻に入れられて、ルーナは外を走ったことがなかったのかもしれない。
毎日、朝と晩に散歩に行くことを決めて、フェリアとカイがやっと落ち着けたのは休みに入ってから三日目だった。
その日には家具が届いたので、テーブルと椅子を組み立てて、ソファも設置して、やっと息を付けたのは夕食を食べ終えてからだった。
安全地帯としてルーナにもミナにも体の大きさに合ったハウスを用意している。ミナはプリンセスが使っていた給餌器にもすっかり慣れて、キャットタワーにも上ったりしているが、ルーナの方はハウスに入って寛いでいることが多かった。
「お休み、ルーナ、ミナ」
ベッドルームには入れないように柵を設置したので、夜はフェリアとカイ二人だけの時間だ。
せっかくの休みも半分に差し掛かっていて、フェリアはベッドに腰かけてカイに謝った。
「俺の我が儘で、休みが終わりそうだ。すまない」
「いいんですよ。ルーナもミナも可愛いし、俺には引き取らなければ二匹が死んでたことの方が大問題ですよ」
殺処分の日の当日にぎりぎりで滑り込んだので、もう少し遅ければ二匹は殺されていたのだと考えるとぞっとする。全ての犬や猫を引き取って幸せにできるわけではないが、せめて自分の手の届くところではフェリアは犬や猫を幸せにしたかった。
「プリンスとプリンセスも処分されるはずの犬と猫だったからな。人間の勝手で飼っているのに、いらなくなったから殺そうなんて、命を何と思っているんだか」
「そうですよね。俺は犬も猫も飼ったことがないので、教えてくださいね」
「ルーナもミナも飼われてたから、ある程度は大丈夫だと思う。ルーナの方はもうちょっと外に出るのに積極的になってくれたらいいけど」
どうしてもルーナとミナのことを考えてしまうフェリアの頬に手を当てて、カイが自分の方に顔を向けさせてキスをする。深い口付けを交わして、舌を絡めると、フェリアはカイをベッドに押し倒した。
「フェリア……?」
「カイには寂しい思いをさせただろうから、今日は俺がしてやる」
「え?」
「新しい家族を迎える場合には、元居た家族を更に甘やかさないといけないんだよ」
「俺はプリンスじゃないですよ?」
苦笑するカイのパジャマを脱がせていって、フェリアは勃ち上がりかけている立派な中心に唇を寄せる。舌先で先端を突くと雫が滲み出て来るのが分かる。
キスをするようにじゅっと独特の味の雫を吸い取り、フェリアはカイの中心を咥えた。太くて立派なので全部口に納めるのは大変だが、喉奥まで咥え込むと、中心が更に硬く太くなって、カイがうめき声を上げるのが聞こえる。
裏筋を舐めながら口で扱いて行くと、カイがフェリアの髪に指を差し入れる。
「出そうです。フェリア、放して……」
「出してもいいのに」
「出すなら、フェリアの中がいい」
甘えるように言うカイに、唇の両端を吊り上げて、フェリアは自分の女性器に触れる。そこが十分に濡れていることを確かめて、カイの中心にコンドームをかけて、フェリアはカイの腰に跨った。
腰を落としてずぶずぶと飲み込んでいくと、その太い中心に内壁を擦られて、気持ちよさにフェリアも息を詰める。
「あっ! カイ! すごいっ!」
「ふぁっ! フェリア! 締まる……くっ!」
「カイ、手、握って」
指を絡めて手を握り合うと、それを支えにフェリアは腰を動かす。内壁がカイを搾り取るように蠢いているのが分かる。きゅうっと締め付けると、カイが中で弾けたのが分かった。
「あ……フェリア様!?」
急に体を起こしたカイが、フェリアの中から中心を引き抜く。
何事かと思ってカイに押し倒されていると、カイがフェリアの女性器に指を入れた。
「どうしよう……コンドーム、破れてたみたいです」
「え? 俺が被せるときに爪を引っかけたのかも」
「フェリア、婦人科に行きましょう。緊急避妊薬、もらって来ましょう」
緊急避妊薬と言われてフェリアは躊躇った。
これで赤ん坊を授かっているのならば、緊急避妊薬で流してしまったら、命を一つ殺すことになる。
これが強姦や性犯罪ならば、緊急避妊薬は一刻も早くもらいに行くべきなのだが、フェリアはカイとの合意の上で性行為をしていた。将来はカイと結婚するつもりもある。
「いらない」
「でも……」
「子どもができてたら、俺が育てる。俺はカイとの間の子どもなら、欲しい」
戸惑うカイにはっきりと告げると、カイの方も覚悟を決めたようだった。
「分かりました。フェリア、俺はまだ警察学校の生徒だけど、俺と結婚してくれますか?」
「カイは俺のものだって言ってるだろ? 俺もカイのものだ。結婚はする」
唇を重ねると、カイが申し訳なさそうに聞いてくる。
「あの、ちゃんとコンドームつけるんで、続き、いいですか?」
「いいよ、おいで」
コンドームを付けるときに失敗したのは恐らくフェリアなのだし、カイが責任を感じることはない。何よりも、子どもがいつできても構わないくらいにはフェリアはカイを信頼していたし、愛していた。
「本当は生でもいいのに」
「それは、言わないで! 我慢できなくなりますから!」
ぽつりと漏れたフェリアの本音に、カイがフェリアを押し倒しながら言ってくる。首筋に甘く噛み付かれて、フェリアはカイの髪を撫でた。
一週間の休暇が終わっても、カイはフェリアのマンションに滞在していた。
ルーナとミナが来たばかりだし、カイは夏休みで警察学校が休みなので、留守番をしてくれているのだ。
まだ完全には慣れたと言えないルーナとミナのためにも、カイがマンションにいてくれることはあり難いし、フェリアも帰ったらカイに迎えられるのが嬉しかった。
仕事に行く前にカイとフェリアでお弁当を作る。
サンドイッチとフルーツだけの簡単なお弁当だが、二人で作ると楽しい。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関でハグとキスをしてフェリアは車で仕事に、カイはルーナの散歩に出かける。
外が苦手で歩きたがらないルーナだが、運動させなければ健康によくないので、無理やりにでも散歩には連れ出していた。
どういう育成環境だったのか分からないが、ルーナは他の犬を怖がり、公園でも走ることはせず、ぴったりとカイにくっ付いているという。
仕方がないのでカイがランニングをすると、ルーナも渋々走り出すらしい。
保護された犬と猫なので、それまでの環境の影響は大きいとは覚悟していたが、ルーナには時間をかけなければいけないようだ。
対するミナはすっかりとマンションに馴染んで、洗濯物を干すときにはベランダに出て日光浴をするほどになっている。
噛み付きや引っ掻きなどの問題行動もないし、ミナは環境に順応していた。八歳という落ち着いた大人の猫である年齢もよかったのかもしれない。
フェリアとカイが座っていると、フェリアの膝の上に乗って来て、「撫でてよろしくてよ?」とばかりにお腹を見せるのも可愛いのだが、イチャイチャしているときには邪魔でもあるので、ベッドルームにだけは入らないように柵も取り付けたし、躾けるつもりだった。
新しい家族を得て、フェリアは満たされていた。
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