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第8話
そんなこんなでようやく店に入る。今日の店はハンバーグ屋さんだ。お察しの通りただのハンバーグ屋ではない。ここのハンバーグ屋はセレブしか来れないと言われている店だ。
「いらっしゃ……って……しぃちゃんじゃん」
「どいつこいつも俺を変なあだ名で呼びやがって」
「あれ?珍しいね、もしかして新しい下っ端ちゃん?」
「ちげーよ。とりあえずいつものくれ」
「はいはい」
なんだ?この男はなんでこんな美人の知り合いが多いんだ?クリクリの目に長いまつ毛で年齢も俺と同じくらいだろう。芸能界にいてもおかしくない可愛さに見惚れていた。
「おい、なに見惚れてんだよ」
「いやすげえ可愛いなって。芸能界にいてもおかしくないくらいのレベルですよ」
「はあ……ムカつくわお前」
ほらまたそうやって俺を睨みつける。
本当怖いんだよ。その目付き。
でもなんでこいつはまるで彼女かのように変なところで怒りだすんだ?え……?まさかだと思うけど俺のこと好きとか?いやいやそれはないか。だって俺、男だし。冗談まじりに聞いてみるか。
「さっきからもしかして嫉妬とかしちゃったりします?まさか俺のことが好きだ、みたいな感じ……とか?」
ヤクザ男から返ってきた言葉は意外なものだった。
「ああ、好きだが?それが?」
「え……?好きっていうのは救世主としての話ですよね……?」
「俺は最初からお前のことを恋愛感情でしか見ていない」
ん……?なんて言った?俺を恋愛感情で見てるって?あれ、なんか俺変なこと聞いちゃった感じ?
「俺、男ですけど……」
「それがなんだ?恋愛に男も女も関係ないだろ」
「それはそうですけど……俺男好きになったことないし」
「これから好きになればいいだろ?」
これから好きになればいいって……そんな簡単に無理だろ。まず俺のことそういう目で見てるってことですら驚きなのに。
「僕のどこに惚れたんでしょう……?」
「顔と中身」
そう。俺はこの日、最強の指定暴力団の若頭に衝撃的な告白をされてピンチなのだ!もしこの先、付き合おうなんて言われたら俺はどうしたらいい?断ったら殺されたりしそうで怖いんだけど……
「俺のモットー知ってるか?」
「知るわけないでしょ」
俺の顔に近づいて頬を掴んできたと思えばニヤリと笑いながらこう言った。
『狙った獲物は絶対だ』
まるで獲物を狙う蛇のように。
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