31 / 104

第31話

「待って!無理!死ぬって!俺無理!」 そう、俺は絶叫マシーンが大の苦手だ。 そんな俺を見ながらケラケラと余裕そうな顔をぶっこいて楽しんでいる男。怖いものがないのがなんかムカつく。 「やばい……吐きそう」 「こんなもの怖がってどうするんだ?」 なんでこの男はこんな余裕なんだ?肝臓が浮かび上がるあの感覚が俺は本当にダメ。死ぬんじゃないかと思うくらいの恐怖が俺を襲うっていうのに…… 「観覧車行きません?」 「……か、観覧車……ああ……まあ」 観覧車に行こうと言うと急に青ざめた顔になる男に首を傾げながら観覧車がある場所まで向かって行く。観覧車も2時間待ちの看板が出ていた。それなのに一向にプレミアムチケットを出そうとしない男に問いかけた。 「なんでチケット出さないの?」 「いや……あの……ああそうだな」 さっきからなんでこんな挙動不審な行動ばかりするんだ?係員にチケットを渡し観覧車に乗り込んだ。 「観覧車最高ですね」 俺の言葉に何も返さない男。まさかだと思って聞いてみる。 「観覧車苦手なんですか?」 俺の言葉に溜息をつきながら言った。 「……高所恐怖症なんだ」 「はあ?ジェットコースター乗れるくせに?」 「あれは一瞬だろ。観覧車はゆっくりすぎて苦手というか……いやまあ大丈夫だ」 ヤクザが高所恐怖症?面白すぎてつい大笑いしそうになる。それでも無理して乗ってくれたんだと思うとなんだかんだ優しんだと再確認する。 「無理しなくてよかったのに」 「お前の頼みなら断れん」 男が男にこんなに大事にされていてなんだか不思議な気分だ。観覧車が頂上に達した時、餌を貰えなかった子犬みたいな仕草に「可愛い」と思ってしまう。なんだ……?知らない顔を知れば知るほど嬉しい気持ちになってしまうのは…… 観覧車も乗り終わり今にも吐きそうな男の背中を摩る。周りの視線はまあ痛いものだったけど、どうでもいい。 「なんか買ってこようか?」 「み、水を……」 本当にダメなんだなと思うとププと笑いが出てしまうが男をベンチに座らせ水を買いに向かう。自販機で買った水を渡そうとベンチに向かっていると女子達に囲まれているあの男に少しモヤモヤした感情が俺を襲った。子供みたいにその輪をかき分けながら男に「はいよ」そう言って水を渡す。 「俺と来てるからごめんね?」愛想笑いで女達をその場から退けさせ、さり気なく隣へ腰掛けると、 「ふーん?嫉妬ってやつか」という自意識過剰な男に一発パンチを食らわせた。

ともだちにシェアしよう!