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第36話
退院の日もあと一週間。
病院ですることなんてマジでなにもない。暇すぎて仕事してた方が全然マシだ。
紫恩さんは仕事がおわると面会時間ギリギリまでいてくれるが仕事が終わるまでのこの時間。ヒマすぎる……
「売店でも行くか〜」
ここは5階。売店は2階と1階。もちろん近い方を選ぶ。エレベーターに乗り売店でラストのツナのおにぎりを取ろうとした時、
「「あっ」」
誰かの手と重なる。
「すみません」
「いやどうぞ」
「いえ、どうぞ」
怖い顔をしているけど優しそうなお兄さん。
お互いツナのおにぎりの譲り合い。中々引かない俺のカゴに無理やり入れてくる。
「えっと……いんですか?」
「鮭のおにぎりが食べたくなったので」
「ああ……ありがとうございます」
「肩、大丈夫ですか?」
「え、なぜそれを?」
「左肩使いたくなさそうな感じだったので」
この一瞬でよくわかったな。なんて思いながらこの人はどこを怪我しているんだろうとジロジロと見ていた。
「俺、左足骨折です」
「ええ?ギブスもしてないのに?」
「痒くて取りました」
「はあ……」
すげえ根性だなこの人。骨折してるとか言う割には全く痛そうにしてないしなんなら今目の前で左足でケンケンしてるし……
「暇じゃないですか?入院って」
「暇ですね〜友達だって来るわけじゃないし」
「あ、そうだ!俺も17時までいっつも暇なんです。よかったら俺の部屋遊びに来ません?お話でも……」
「構いませんよ。部屋は何階ですか?」
「5階です」
「……俺もです」
「何号室ですか?」
「502です」
なんと偶然にも隣の部屋だったわけで……
俺はこの病院で友達ができた。それから毎日、紫恩さんが来るまでたわいもない話をした。
趣味は?とか、地元は?とか。名前は守屋 千晴 。24歳。まさか歳まで同じとは……俺の部屋にいるとたまに千晴を迎えに来るスーツ姿の金髪のお兄さん。職業を聞くと「サラリーマンですよ」なんて言っていたけど千晴の髪は赤髪。こんなサラリーマンもいるのかその時は思っただけだった。
そんなある日、紫恩さんと千晴が鉢合わせする。
「……千晴?」
「……え?兄さん?」
は……?俺の頭はここで思考停止。
「兄さんって?!え?」
「こいつは俺の弟だ」
「名字違うのに?!」
「本当の兄弟じゃないからな」
そのまさかのまさかで俺はこの男の弟と仲良くなったみたいだ。しかも散々この男の悪口を言っている。「1か10の頭しかない」とめちゃくちゃ悪口を言ってしまっている。
俺は……終わった……
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