50 / 104
第50話
紫恩さんの言葉で何も言い返せない俺。
俺からの返事を待っているかのようにジーッと俺の目から目線をそらさない。
「俺は……みんな大事にしたくて……ええと……」
「お前ならそう言うと思ってた。俺らの価値観って合わないのかもな。俺は俺を死ぬほど好きでいてくれないと満足できない。ましてや1番という存在じゃないと気に入らない。お前は言ったな?みんなを大事にしたい。そうじゃないんだよ。優先順位ってもんがあるんだよ。それは俺がおかしいとかじゃない。だからってお前をおかしいと言っている訳でもないが愛する人が出来たら優先順位ができて当たり前だ。ほとんどの人間がそうだ。俺はお前以外必要ない。これでいんだよ。俺が求めていた言葉は俺が1番大事ってことだけだ。俺みたいに俺以外必要ないとかそんな言葉を求めてるんじゃねえよ」
ああ、何となくわかった気がする。紫恩さんが言いたいこと。これは多分俺が悪い。多分じゃなくて絶対に。確かにそうだよ。恋人と友達じゃ訳が違う。恋人なんて友達以上のことをする存在なのに俺は平等だなんてずっと言い張ってきたんだ。好きって言葉すらちゃんと伝えてない俺がなにを不満なんて持つ必要あったんだ?不満だらけなのは紫恩さんの方だ。恋人に好きだと言われないまま自由がほしいなんて言われちゃ不安にしかならないで当たり前なのに。なんで気づけなかったんだろう。
「今までごめんなさい。俺ちゃんと紫恩さんのこと好きだよ。嘘じゃない。恋愛感情でちゃんと大好きだよ」
「……今言われたって嬉しくねーよ。悪いけど信じられない。俺達一旦距離置いてみるのも悪くないと思うが。どうだ?」
「それは……俺が決めれることじゃないから」
「そうか。じゃあ一旦距離を置こう。俺からは連絡しない。俺ん家だと遠慮するだろうから俺のカードを渡す。好きに使え。いいか?悪いと思ってあいつらの所には行くんじゃねえぞ?俺のカードを使え。いいな?」
これは甘えてカードを使うべきだと思った俺は頷いた。最後にキスをしてこの家を後にする。スーツなど必要な分をキャリーケースに詰め込んでホテルへと向かった。部屋へと入って思うことはすごく寂しいということ。いつも紫恩さんとは別の部屋だったけど同じ屋根の下。でも今日から屋根の下ですらない。寂しくてたまらなかった。こんな事になるならいっそのこと早く好きだと伝えるべきだった。今更後悔したって遅いけどそのせいで男らしくない涙が止まらなかった。
あーもう好きすぎておかしくなりそうだ。
ともだちにシェアしよう!