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第51話
「……おはようございます」
「琉生!」
会社へ行くと瑞希が心配そうな顔で俺に近づいてくる。木南は今日から営業部。多分ショックが隠しきれてないんだろう。そんな瑞希の声に返事もしないままデスクへと向かう。はあ……とため息をつきながら思うことはただ1つ。紫恩さんに会いたいということだ。人間は不思議なことに遠くに行ってしまえばしまうほど大切さに気付く。
「二階堂くんちょっといいかな?」
そんなことを考えていると部長に呼ばれた。
プライベートを持ち込むな!なんて怒られるんだろうかとビクビクしながら部長のデスクへ向かった。
「なんでしょうか?」
「あー、急で悪いんだけどさ二階堂くんはしっかり者で仕事もよくできる。だからさこの会社の親会社があるだろ?青藍 グループ。あそこへ異動しないかい?」
「……はい?」
まあ俺達の会社はそこそこ有名な会社ではあるが青藍グループはまた格が違う。ハイスペックな人間しか入れないって言われているような所。そこでいい実績を積むと海外進出できるとかできないとか……そんな会社へ俺が異動なんて……無理に決まっている。
「そんなの無理ですよ。木南じゃなくてなんで俺なんですか?」
「えーいい話だと思わないかい?木南くんはここの会社をもっと大きくしてもらうために必要な存在なんだ。しかも最近営業部に行ってもらったばっかだし……そして二階堂くん!キミはキミの才能をもっと開花さすべきだ!」
「いやいや……そもそもここでする事と向こうでする事って全然違う業務ですよね?無理に決まってるじゃないですか……」
「ノンノン!二階堂くんは愛嬌のよさと口の上手さが別格だ!人の心をつかむ才能がある!キミのすることは接待!向こうでは毎日のようにお偉いさんとの会食がある。青藍グループの社長さん達と一緒に相手の心を掴むんだ!それがきみの仕事だ!」
いやちょっと待て……そんなキャバ嬢みたいなこと俺にはできん!絶対に無理だ!永遠と横に首を振る俺に対してさらに首を振り返してくる部長。俺に断る権利はないって……?そもそも接待だけの仕事ってなに?
「ちなみに給料は今の3倍!」
「3倍?!」
三桁近くの額だぞ……接待するだけで?いやでも絶対なにか闇がある。絶対そうだ。
「いやそんな上手い話あるわけないでしょ……」
「それがあるんだ。青藍グループの社長さんが言ってたんだよ!『仕事出来るやつは山ほどいるが接待になると皆役立たずだ!』と。だから僕が二階堂くんの話したら今より3倍ほどの給料を出すから連れてこい!って言うもんだからさ〜。ね?どうかな?」
もしこれを受けてしまえば瑞希と木南と一緒に仕事が出来なくなるじゃないか……だがこの話を受ければ……3倍の給料……どうするべきだ、俺。
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