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第54話
「え……えっと……?」
「おいそこの一之瀬とやら契約を進めてくれ」
「え?あ、はい……」
なぜかトントン拍子で契約は進んでいき俺は初の仕事を成功させてしまった。戸惑う俺にニコッと微笑む目の前の爺さんとまだ理解が追いついてない社長を前に資料を並べていく。が……この後はどうすればいいんだ?アタフタとしていると社長が俺の肩を叩いて目で『任せろ』と合図をする。
「二階堂くんと言ったかね?」
「あ、はい!」
「キミはそのままでいい。最近の若いもんは上のやつらに指示されたらその通りに動いてしまうのに対してキミは仕事を全うしている。中々できる事じゃないんだ。ぜひその才能を今の仕事で活かし続けて欲しい。わしの周りの社長さん達にもこの話をしておこう」
「えっと……!ありがとうございます!」
昔から散々言われてきた。『空気読め』とか『いちいち言う必要ないだろ』とか。俺の短所だと思っていた所を褒められるのは正直嬉しい。
「ここの会計はワシが持つ。詳しい話はまた電話なりしてくれ。それじゃあ失礼する」
こうして無事成功させた俺はルンルン気分でレストランを後にした。
「……お前すごいな」
「まさか自分にこんな才能があるなんて……」
『すごいすごい』そう言って俺の頭をワシャワシャとする社長に『この人こんな事するの?』なんて思いながら会社へ戻ろうとしていた時に聞き覚えのある声が俺の足を止めた。
「蒼空……?」
声をする方を振り向けば紫恩さん。俺たちまだ距離置いて何日かして経ってないというのに何だこのタイミングは……って……それより俺の名前じゃなくて今『蒼空』って言わなかったか?蒼空って……社長の名前だよな?振り向いても俺にすら気付かず社長の方へと足を急がす。
「蒼空!お前生きてたのか?」
「ああ……なんでここにいるんだよ」
「……仕事だよ。お前もなんで……って琉生?なんでお前がこいつと一緒にいる?」
このモヤモヤした気持ちはなんだろう。今の今まで俺の存在も気付かないほどってどういう関係だ?千晴の時もそうだけど……なんで俺と関わる人達と毎回、知り合いなんだよ。
「……仕事です」
「お前いつ仕事変わった?なんで言わない?」
「言う必要なんてないでしょ。それより2人は知り合いなんですか?」
「……引かないで聞いてくれ。元恋人だ」
社長の言葉にただ固まることしか出来なかった。元恋人だという現実より俺にとってその元恋人って事よりも紫恩さんにとっては今隣にいる俺なんかより元恋人の存在の方が大切なんだと気付いてしまったから。
そっちの方が俺にとってよっぽどキツい。
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