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第57話

紫恩さんの気持ちもわかったところでクレジットカードを光輝さんに渡し部屋を出ようとした時、 「ちょっと待ちなよ」 光輝さんにとめられた。 「なんですか?」 「自分で返しなよこれ」 「……会いたくないですもん」 「だーめ!自分のケツは自分で拭きなよ」 なんだかんだヤクザというものは礼儀がなってたり、人思いだったり優しい一面がある。お金の稼ぎ方は良くないことだとしても関われば関わるほどヤクザは俺たちが思ってるより悪い存在じゃないのかもしれないと思わされる。 「……じゃあ光輝さんもついてきてください」 「うーんまあそれならいいよ。今から行く?」 「はい」 光輝さんが言うにはまだロビーへいるらしい紫恩さんと社長。いざ返しに向かおうとすると緊張が俺を襲う。エレベーターでロビーの1階まで下りていた時、唾をゴクリと飲み込んだ。 (緊張のせいで唾液が勝手に増える……) 光輝さんに背中を押され、紫恩さんの前に立つ。 俺を見つめながら首を傾げる目の前の2人に近づいていく。 「こ、これありがとうございました」 クレジットカードを紫恩さんの胸に押し付けた。 「なんで返しに来たんだ?」 「必要ないからです」 「なんで?」 「目の前にあるものを大切に生きてください。では失礼します」 2人に背中を向け泣きそうになる感情をグッと堪えて光輝さんの元へと戻っていく。ほらな?ここでも止めてくれはしないんだ。泣きそうな顔に気付いたのか光輝さんは何も言おうとはしなかった。光輝さんの手を引っ張ってその場を後にしようとした時、突然手を振り払われる。 『ボコッ』 痛々しい音がしたと共に振り向けば頬を抑えながらその場にしゃがみ込んでいる紫恩さんの姿。光輝さんは紫恩さんを殴っていた。 「いきなりなにすんだてめえ」 「おめえこそ何してんだよ。昔からおめえのそういう所が気に入らねえんだよ。九条組の若頭が情けねえな?恋人もろくに大切にできねーのか?ほんと笑わすなよ。1番が琉生くんじゃねーなら解放してやれ。いつまでも一般人の琉生くんを縛ってんじゃねーよ」 俺の方をジロっと見てくる紫恩さんに思わず目を逸らした。ホテルにいる人達はみんな俺たちに注目している。『揉め事か?』『警察呼ぶか?』そんな声が聞こえてきて今ここで警察なんて呼ばれてしまったら2人の立場上ヤバいと思った俺はとりあえず光輝さんの手を引っ張ってその場から逃げた。 「琉生くん?まだ話しが……」 「警察呼ばれたら2人ともやばいでしょ。それと……ありがとうございます。ただのクソ野郎だって思っててすみませんでした」 (そう言えば紫恩さんこの間からよく殴られてるな、ウケる) 光輝さんの言葉に少しは反応してくれたかな? 今更遅いけど……1番大事なのは紫恩さんだって今ならわかるのに。

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