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第58話
ホテルの外へ出たところで光輝さんに会釈をしてその場を後にしようとした。すると光輝さんにまた呼び止められる。
「琉生くん」
「はい?」
「家どうすんの?」
「ホテルでも借りるんで大丈夫ですよ」
「僕の家にでもいたら?お金は出すし」
「そんなの無理ですよ」
あまりにも可哀想だと俺に言ってくる光輝さんに2回目の会釈をして今日泊まるホテルを探すためにスマホを開いた。後ろからでも俺を見つめる視線がわかる。
「ちょっと待てよ」
「……?」
後ろを振り向けばそこには別れたはずの紫恩さんの姿と社長。今更なんだよ?とイライラが抑えられない俺は急ぎ足で逃げる。後ろから迫ってくる足音に捕まる。
「なんなんですか」
「なに泣きそうな顔してんだよ」
誰のせいだよ。今更止めんなよ。もうやめたいのに。紫恩さんといると苦しい。
「家へ帰ってこい」
「は……?」
本当に自分勝手すぎる男に涙も流れなくなってしまう。紫恩さんの発言に何も返せない俺に近付いてくる。
「来るなよ!」
「……触れさせろ」
「触るな!」
「無理」
俺の顎を掴んで唇を重ねてくる。ビックリする俺を抱きしめる。これ以上、好きになりたくないのに。
「……勝手に終わらせようとすんな」
紫恩さんの声は――――震えていた。
抱きしめたあと俺の頭をポンポンとし社長の方へ向かっていく。
「……悪いな。俺は琉生が好きすぎるらしい。急にいなくなったお前と久しぶりに会ってもう失いたくないって思った。だが……もっと失いたくないのは琉生の方だ。ちゃんとお前のことは終わらせるから……勝手な俺を許してくれ」
紫恩さんの言葉にニコッと笑う社長。
「お前何か勘違いしてないか?俺はお前のことが嫌で別れたんだよ。二階堂くんは俺の大事な部下だ。泣かすようなことをすればお前を殺す」
「ああ……琉生を頼む」
「お前に頼まれたくねーよ」
「二階堂くん……明日待ってるから」
「え?はい……」
そう言って後ろ姿のまま手を振り遠くになった社長の姿を見えなくなるまで見つめた。紫恩さんに目をやると光輝さんに近付いていくのが見えた。
「……今だけは感謝する」
「お前のためじゃねーよ。琉生くんのためだ」
「ああ。でもさっさと琉生のことは諦めろ。てめえ腕組んでたな?ぶっ殺す」
「あ?それはお前が……「だからなんだ?それとこれは話が別だ」
「お前誰のおかげ……「関係ない殺す」
こうして2人の殴り合いが始まりそれをただ またか と頬を緩めながら見ていた。
この光景も……悪くないな。そう思って。
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