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第68話
象も蛇もウサギも全部堪能した所だし動物園をもう出る雰囲気になっているはずなのにたまたま迷い込んでいた野良猫を愛おしそうに見つめていた紫恩さん。
「猫好きなんですか?」
「いやお前に似てるから」
「俺に?」
「ああ、お前猫みたいに気まぐれ野郎だろ?やっと物にできたと思えば去ろうとして去っていったかと思えばまた甘えてくる。お前は本当に……猫みたいだよ」
優しく微笑みながら猫の顎を触っている。
「猫……ですか」
「ああ、だから振り回されているような気がして余計手離したくなくなるんだよ。蛇に飼われる猫。いい響きだと思わないか?」
「よくわかりません」
「……。この猫まだ小さいな。どこかに親がいるかもしれん。探してこい」
「お、俺が?」
「生憎、俺はこの猫に好かれちまってる。この場から離れられない。行ってこい」
こうして強制的に親猫を探すことになった俺。
ダチョウの前のところでなにか群がっているカラス達。そこには1匹の大人の猫がいた。
(これが親猫か……?)
傷だらけの体のせいで弱ってる。
カラス達を追い払って猫を抱いて紫恩さんがいる所まで駆けて行った。子猫を見せると愛おしそうに我が子を呼ぶ弱々しい鳴き声。
「はあ……今から病院連れてってやる。その代わり二度と怪我するなよ?大事な子供守れないだろ。クソ親め」
親猫に説教をする紫恩さんが可笑しくて思わず吹き出してしまった。
「アハハ、なんだかんだ優しいですね。見直しました」
「お前に似てるから助けてやるだけだ。こいつが死のうがどうでもいい」
いや死んだら困るから助けてるくせに。
本当、素直じゃなくて困る。
そして2匹の猫を抱えて動物病院へと向かって行く。スピードを出して。ほら本当は心配なくせに。思わず頬が緩んだ。
病院について顔には出さないけど足は駆け足で病院へと一直線。院内に入ったかと思えば受付の人に声をかけている紫恩さん。
「死にそうだから早めに頼む」
「順番にお呼びしますので少しお待ち下さい」
「至急だと言ってるのがわからないのか?」
「ですが……順番通りに……」
受付の人の声を遮るようにスマホのカバーから紙切れみたいなのを取り出して見せている。
「これでも俺を後回しにするのか?」
「院長に聞いてきます。お待ちください」
相当焦っている受付の人を見てヤクザだと脅したのかと思った俺はさり気なく聞いてみた。
「なに見せたの?」
するとニヤニヤしながら名刺を見せてきた。
【DIER STORY 代表取締役・三島 一豊 】
え、誰?
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