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第69話
「え、誰?」
「あ?俺」
「は……?」
え、この人今まで偽名使ってたの?理解できないんだけど。
ジーッと紫恩さんを見つめるとニヤニヤと意地悪そうな顔を浮かべている。
「後で話してやるよ」
そう言って俺の頭をポンポンとする。
「三島さ〜ん。こちらへ」
名前を呼ばれてもピンとこない俺と診察室へスタスタと入っていく紫恩さん。しかもあの名刺のせいかすぐ呼ばれた。
「何してんだ?早く来い」
いやいやあんた九条じゃん?気になりすぎる。
三島の名前の意味を知りたすぎる……
子猫と親猫を抱いて中へと入るとそこにはおっちゃん獣医さん。親猫を見て〝これは!〟なんて言うからつい〝え、死んじゃうんですか?!〟と返したら〝なわけあるか〟と返される俺。紛らわしすぎだろ。
「で?さっさと容態教えろジジイ」
相変わらず誰に対しても口悪いなこの人。
「まあまあそんな急かさんといて下さい。カラスか何かにつつかれてそこからバイ菌が入ったんでしょう。薬を飲めばすぐ治りますよ。ちゃんと飲まし続けてくださいね。診察は以上です」
「はあ?お前ヤブだろ」
「失礼な。わしはこれでも有名な獣医ですけどね?」
「どう見てもヤブだろ。5分も診察してねえじゃねえか」
「その5分間でわしは原因がなにかを突き止めたんだ!これはカラスかなにかによって作られた傷!そしてそこが膿んでるから消毒してガーゼをするから三島さんの役目は毎日薬を飲ませること!いいですね?」
「ッチ……うるせえジジイだな」
ん?でも待てよ……毎日ってこの子野良だよ?
どうするつもりですか。紫恩さん。
診察室を出て薬をもらって車へと乗り込む。
「ところで紫恩さん……名前のことは後で聞きます。その前に猫どうするんですか?」
「どうするとは?元々野良猫だったんだ。返すに決まってる」
「獣医さんの話聞いてました?毎日薬を飲ませなきゃいけないと仰ってましたよ?」
「それが?」
「え?この意味わかりませんか?毎日世話をしなくちゃならないんです。飼うんでしょ?」
「……」
「もしかして紫恩さん……」
この男はどうやら何も分かっていなかったみたいだ。バカだ!絶対にバカすぎる!
「さすがにここまでしたんですから責任がありますよ。飼いましょう」
「こいつらがいたら琉生との時間減るだろ」
「そんなこと言ってる場合ですか?」
「……デートなんかするんじゃなかった。ああ!もうわかったよ。飼えばいんだろ?飼えば」
2匹の猫を見ながら〝よかったな〜〟って言ったら〝ニャー〟と返してくる親子達。
俺達の家に新しい家族がやってきた。
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