96 / 104
〜蛇と虎〜
*紫恩side*
中学一年の6月中旬、あいつと出会った。
「みんな転校生紹介するぞー」
いつもは出ない授業もこの日はなぜか気分が良く教室にいた。
「自己紹介してくれー」
「……」
転校生だという男は俺と同じ匂いがした。
顔を見た瞬間から『こいつとは仲良くしちゃダメだ』と思った。
最悪なことに転校生の席は俺の後ろで同じタイプの人間だと気付かれないように教室を出ようと立ち上がった時、俺の腕は転校生に捕まっていた。
「あ?」
後ろを振り向くとニヤリとしながら俺に言った。
「俺と同じ人間だろ?仲良くしようぜ」
こいつは狂っている。本能がそう言った。
俺が敵う相手じゃないと。初めて敗北感を味わった。喧嘩なんてしなくてもそれはわかっていた。
「勘違いだろ」
だから俺はその場から逃げるように教室を出た。
でもその日から転校生は俺にしつこいくらい纏わりついてきた。
初めは鬱陶しくて仕方なかったが気付いたら隣にいることが当たり前になっていた。
城崎 翔 。
何を考えているのか分からないような奴だった。
そんなある日のこと事件はおきた。
「俺と喧嘩しようぜ」
いつものように隣にいた翔から急に言われた言葉。
今まで負けを知らない俺にとって翔との喧嘩は避けたかった。
「しねーよ」
「じゃあ負けを認めて蛇でもいれるか?どうすんだ。まあどうせ負けたらお前はその体に蛇をいれなきゃならないけどな」
蛇……俺の組では蛇を入れることは禁止されていた。昔、親父の親友が無名のヤクザに殺されてその親友には蛇が彫られていたから。
蛇をいれるということは親父に喧嘩を売るということだ。
だから仕方なく、仕方なくだった。
「九条組の将来の組長様も大した事ねえな」
俺の想像していた通り、ボロボロにやられた。
初めて負けた相手が翔だった。
俺もヤクザの息子。約束は絶対の世界で破れるわけもなく翔を連れて翔の目の前で蛇をいれた。
元々入っていた虎を上書きするように。
「そっちのがお前はお似合いだな」
いつか絶対殺してやるそう心に誓った瞬間、
「じゃあ俺もいれようかな」
「は?何言って――」
「勝利の虎をな」
こんな狂っている男と出会ったのが間違いだった。そう思ったと同時に翔に恐怖を感じた。
親父にも虎が入っていてそれをわかっててこいつは虎をいれたんだろう。
蛇を俺にいれさせた理由もこいつは多分知っている。何もかも全て知っている上で俺に近付いた。
「お前何が企みなんだ?」
「んー親父の仇かなあ」
「は……?」
城崎翔は親父の親友の息子だった。
ともだちにシェアしよう!