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第11話 R18

 橘はどうやらバイらしい。  俺とのプレイに対して、すんなりと受け入れられると言ってのけた位だ。  嫌がったのは俺の方。  先日、俺がアダルト配信者のヨルだとバレた日に、橘からプレイの誘いを受けた。  何を言われているのか当初混乱して言葉を無くしている俺に  『お互いにとっても良い案だと思うが?』  ベッドで仰向けになっている俺を見下ろしながら呟く橘に俺は  『………命令か?』  なんて嫌味タップリに返した。  俺の台詞に橘は微かに笑い、次いではベッドに腰掛けて俺の頭を撫でると  『イヤ、君が嫌なら無理強いはしない……、だが多分君にとっても良い案だと思うが?』  『何を根拠にッ……!』  撫でられている手を払いのけて、俺もベッドから起き上がると橘の隣に座る。すると橘は思いの外真っ直ぐに俺の顔を見て  『昨日セルフでサブドロップに落ちてたか?』  言いながら再度俺の頭を撫でると、そのまま手をスルスルと下にさげて、俺の頬をなぞる。  ゾゾゾッと、気持ち良さに鳥肌が立ちそうで、撫でられた方に顔をグイと向け、自分の顔から橘の手を遠ざけようとした。  俺のその行動がおかしかったのか、橘は口元を上げてフフッと笑いながら  『けれど私に抱き締められて眠って、体調が良くなっただろ?』  優しく嬉しそうな表情で、得意気にそう言う橘の台詞に、俺は何も言えられなくなる。  なぜなら、それが事実だからだ。  昨日のあの状態が一人なら、きっとまだ俺はベッドの中で苦しんでいたはず。  悶々とネガティブな感情の波に叩かれて、息もできずに溺れている。だが、それも橘にただ抱き締められて眠った事で解消された。  それって、つまり………。  『どうやら君の中で、私は信頼してもらえるDomだという事になる』  橘の言葉で突き付けられた事実は、酷く俺を動揺させたが、それと同時にスコンと何かが俺の中で落ち着く。  チラリと隣に座っている橘の顔を盗み見ようと、視線を泳がすと  『ッ……』  『悪い話じゃ無いだろ?』  フワリと柔らかい笑みで俺を見ている橘の顔。  こんな表情の橘を初めて見て、ドクンと大きく俺の鼓動が跳ねる。  『あ、あんた何で、ヨルって解って……』  話を逸らすように俺は疑問だった事を橘に聞くと、アイツは少し気まずそうにしながら  『前に言っただろ?処理の仕方は幾らでもあるって……それに、部屋の感じで解る』  『それって……』  『……まぁ、リスナーって事だ……』  『ッ……』  認められれば、それはそれでこんなにも気まずい気持ちになるとは思わなくて、俺は居たたまれなさに顔を下にさげると  『でもあんた……、この前のSubは女だったよな……?』  興味本位で同性のアダルト配信をノンケが見る事もあると、聞いた事がある。  橘もその場合かも知れないと、俺はボソボソと呟くが  『イヤ、……私はバイだからな。性別は基本的には関係無い』  『あ~~~………』  詰んだ。逃げる口実が何も無くなってしまった。  首を落としたまま深く溜め息を吐き出すと  『何を悩む?信頼出来るDomが近くにいるのは良い事だろ?』  橘の嬉しそうな声が横から聞こえて、俺は頭を抱えた。  っていう経緯があって、今に至っているワケで………。  結局、俺はあの後橘を説得できずに、プレイの申し出を受けた形になっている訳だが……、何とかここ数日はのらりくらりとかわして一度もプレイを実践してはいない。  ハウスキーパーの仕事も続けているしな。  今日も橘は自宅で仕事だ。  先程夕食を一緒に食べ終えて、いつものように橘はリビングで酒を飲んでいるし、俺は食器を片付けている。  布巾で食器を拭き終わり、食器棚の中に食器を片付け終えると、俺はリビングにいる橘に一言声をかける。  「終わったから帰るな~」  テレビを見ながら酒を飲んでいた橘は、俺の台詞に顔をこちらに向けると  「は?今日は無理だぞ?」  と、飲んでいたグラスをテーブルに置いて、ソファーから立ち上がると俺の方に歩いてくる。  「イヤイヤ、無理って……何が?」  近付いてくる橘の圧に、俺は腰が引けて二、三歩後退るが、伸びてきた手に手首を掴まれ  「もう、帰る言い訳は尽きただろう?」  なんて、痛いところを突かれてしまう。  あぁッ、そうだよッ!もう帰る言い訳が見つからね~から、サラッと帰ろうとしたんだろうがッ!  心の中で悪態を吐きながら、どうやってこの場を逃げようかと算段するが  「こっち」  手首を引かれてリビングに連れて行かれると、ソファーに座らされる。  あぁ~~、マジでこのままプレイすんのか!?ヤバいだろ?ヤバイよな!?  ソファーに座ると、落ち着くどころかソワソワして無理だ。隣に座っている橘がいつ何を俺に仕掛けてくるのか気が気じゃない。  初めてのDomとのプレイが正常じゃ無かった俺は、本当の意味でのプレイを知らない。  そりゃぁ俺だってアダルト配信してる位だし、健全なゲイなので流れは解る。流れはな。だが、そういう事を自分がするのかと思うと………。何だか想像できずに戸惑ってしまうし、恥ずかしいっていうのが、本音だ。  橘はグラスに残っている酒を一口であおると、ゆっくりとテーブルに置いてこちらを向く。俺の手首を持っている手はそのままなので、俺は逃げることが出来ない。  「一つ確認なんだが……」  「な、何だよ……」  「Domとプレイはしたことあるか?」  言いながら、俺の手首を掴んでいた手はそのまま手の甲に落ちてきて、スリリッと俺の手の甲を撫でる。  「……ッ、ね~よ……」  「ふ、む……」  俺の返事に橘は、空いている方の手を自分の口元に持っていきしばらく何か考えていると  「じゃぁ、今から二人のルールを決めよう」  「……ルール?……セーフワードの事か?」  AVとかではプレイが始まる前に、Subが無理だと判断した時に言えるセーフワードを決めている。そのまま無理に行為を進めていると、Subがサブドロップしてしまう可能性があるからだ。  「まぁそれもそうだが、普段の事も決めておきたい」  「普段……」  プレイ以外に普段の事で何か決めないといけない事があるのか?  思っていた事が表情に出ていたのだろう、橘は少し困ったような顔をして  「君はまだ本当の意味で私のSubでは無いから、本格的なプレイは出来ないんだ」  「そう……、なのか?」  橘から意外な言葉を言われる。  「信頼関係は多少できてるといっても、今本格的にプレイすると確実に君はサブドロップしてしまう。それは私も避けたいからね」  「そうか……」  いきなり本格的なプレイを強制されるワケでは無いと解り、少し安堵する。  「そうだな。それでもっとスムーズにプレイができるように、幾つか君とルールを決めて徐々に慣らしていきたい。良いか?」  俺の反応を探るように上半身を傾けて、俺の顔を覗き込んでくる橘に、俺はコクリと首を上下に振る。  「良かった。じゃぁ私の上に乗ってくれるか?」  「……………ッ、はぁ?」  たった今ルールを決めると言っていた口から、予想もしなかった台詞が聞こえてきて俺は橘に聞き返すが、橘はニコリと笑ったままで、俺をジッと見詰めている。  「イヤ………、マジで?」  「マジで」  また橘は俺の言葉を真似て笑っているが、あのDom特有の目は笑っていない表情になっている。そこで俺も理解する。ルールは決めるがそれと同時に、プレイも始まっているのだ。  俺は小さくコクリと喉を鳴らし、正面から橘の顔を見ると  「どう……、乗ればいいんだよ……?」  小さく消え入りそうな声で呟いたが、俺が理解した事が解ったのか、橘は優しい顔付きで  「正面から、私の脚を跨いで乗ってくれるか?」  言われた事を頭の中で想像して、俺は躊躇う。だって俺が最初に予想していたのは、Kneelで、『お座り』だったから。  それがいきなり橘の膝に乗るというもので……、初心者の俺にしてみればハードルが高い。  だが、橘も引く気はないようで……、俺は唇に一度グッと力を入れて、橘の膝に乗るためにゆっくりと体を動かす。  俺が体を動かすと同時に、撫でられていた橘の手が離れて、俺の邪魔をしないように微動だにしなくなった。  俺はヤツの肩に手を置かずに、その先にあるソファーの背もたれに手を置いて、躊躇いながら橘の膝を跨ぐと、太腿に尻を着ける。だが体重を全部橘の太腿にかける事ができなくて、膝に力を入れてソファーに重心を置いていると  「体重を私にかけて、背もたれに置いてある手も首に回して」  いつもより近くにある橘の顔から、そう言われ俺はオドオドしながらも言われた通り体重を橘の太腿にかけて座り直し、手を首に回す。  「GoodBoy、初めてなのに言う事が聞けて偉いな、良い子だ」  そう言いながら、橘は片腕で俺の腰を自分の方にグイと引き寄せ、もう片方の手で俺の頭を撫でる。  あ、………何……ッ?  そうされて、俺の背筋にビビビッと走る甘い疼きと、褒められて嬉しいという感情が体を支配する。  ……………ッ、こんなの、知ら、無いッ。  恥ずかしいのに嬉しくて、もっと褒めて欲しくて俺は橘の首筋にスリッと顔を寄せると  「ん、どうした?恥ずかしいか?」  顔を近付けた事で橘の声が耳元で聞こえ、無意識に俺はむず痒るように体を捻ってしまう。  「石川君、顔を見せて。このままじゃルールを決められない」  俺が恥ずかしくて顔を見せないようにしている事は解っているはずなのに……。  でも、顔を見せたらまた……、褒めてもらえる、のか?  期待の方が恥ずかしさを上回ってしまうと、俺は素直に首元に埋めていた顔を上げて橘と視線を合わせる。  「……、ハハッ、君顔が真っ赤だ……、良い子だな」  頭を撫でていた手が、俺の頬に触れるとそのまま手をスルリと裏返しにして、手の甲で頬を何度か撫でてくれる。  前にも思ったが、コイツとは本当に相性が良いのかも知れない……。  こんな感覚AV見てる時や、配信でCD聞いてる時よりも……ッ、何倍もクるッ!  「……ッ、ハ、ァッ」  褒められる気持ち良さに、俺はギュッと目を閉じて吐息を漏らすと  「で、ルールなんだが、石川君は人前でSubだとは知られたく無いんだろ?」  気持ち良い余韻をぶった切るように、橘が俺に聞いてくるので、俺はソロリと目を開けてコクコクと頷く。すると橘は引き寄せている腰を更にグイッと自分の方に寄せて  「君、口が無くなったのかい?ちゃんと言わないと解らないだろう?」  低く甘い声は、纏わりつくように俺の全身を撫でるようで……。  「ハッ……、そう、だ……ッ」  震える唇で、なんとかそう呟いた俺に  「そうか……、じゃぁ人前ではSubだと解らないように対等な立場でいよう。良いかい?」  「う、ん……」  「それと、一日私だけといる時は抑制剤を飲まない事。守れるかな?」  息も絶え絶えに返事をしているのに、橘は俺に言いながらユックリと自分の太腿をユサユサと揺らし始める。  「ハァッ……、ンゥッ」  下から突き上げられる感覚に、俺は吐息を漏らしてしまう。それが恥ずかしくて橘の首に回していた手にギュッと力を入れてしまえば、自分の顔を再び橘の首筋に埋めてしまう格好になった。  「ホラ、答えなさい」  ユサ、ユサと振動はそのままに、俺に答えるように言ってくる。  俺はそのままの態勢で口を開くと  「わか、っ…た…」  「……オイ、私はさっきなんて言った?」  耳元で先程の甘い感じとは違う橘の物言いに、俺の体はビクリと反応する。  あ……、何で、怒って……?  急に不機嫌な態度になった橘に俺は戸惑い固まってしまうと、はぁ。と溜め息が聞こえて  「話をする時に、さっき私は君に何を求めた?」  その台詞に俺は、震えながら上体をユックリと起こし、橘の顔を見るようにすると  「ン、そうだな。恥ずかしくても私を見なさい、解ったかい?」  「……ッ、わか、っ…た」  「ハハッ、偉いな」  再び橘の手が俺の頭に触れて、キュゥゥッと臀部に力が入る。  ヤバい……ッ、こんなの知らない。俺が、こんなになる事も……。  「ン?気持ち良いのか?腰が動いてる」  楽しそうに言う橘の言葉に、俺は、は?と視線を下におろすと、無意識にヤツの腹に勃ち上がってパンツの中で窮屈そうになった自分のモノを擦り付けていた。  「あ?……なん、で……ッ」  カクカクと動かしていた腰を止め、羞恥心で目に涙が溜まる。  こんな事……、コイツに……ッ。  自分の行動が信じられなくてプチパニックになっている俺を落ち着かせようと、橘は腰に回していた手を背中に移動すると  「あぁ、戸惑わなくていい。素直な反応が見れて嬉しいよ」  ポンポンと優しく背中を叩かれ、ホゥ。と吐息が漏れる。瞬きをした瞬間、目に溜まっていた涙が一筋頬を伝うと、それに気が付いた橘が頭に乗せていた手を頬に移動させ、濡れた頬をスイと指先でなぞり  「恥ずかしくても、頑張ったな」  フワリと笑顔で言われ、シビビビビッとまた腰から背中にかけて甘い痺れが登り、俺は背中を緩く仰け反らせてしまう。  「くぅ、ぅッ……」  仰け反らせた瞬間に、勃ち上がった俺のモノからトロリと先走りが滲み出てしまう感覚に、俺は奥歯を噛み締め喉を反らす。  「ん~?配信の時よりも感度が良いみたいだが……、軽くイッたか?」  楽しそうに喋りながら、橘は両手を俺のパンツに伸ばし、ボタンとジッパーを下ろすと先端が先走りで色が変わり濡れているボクサーパンツをジッと見詰める。  「あ……ッあ、何……してッ」  恥ずかしくて俺は首に回している手を下におろして、見られないように隠そうとしたが  「Stay」  一言、橘から『待て』と言われて、俺の体は固まってしまう。  ここで、そのコマンドはズリィだろ……ッ。  動けなくなってしまった俺は、ハッ、ハァッ、と荒い息を吐き出しながら次に橘が何をするのか気が気じゃない。たが橘は、何をするわけでもなくただ俺の体を眺めているだけで……。  …………………コイツ、見るだけかよッ!  ユックリと視線を俺の顔から胴体、勃ち上がったモノへと移して視姦している。  その事実に気付いて、ブルッと俺の太腿が微かに震えると、ボクサーパンツの中で窮屈そうにしているモノも、ビクビクと震えた。  俺の反応に橘が微かに口元を歪めたと思ったら、次いでは俺のボクサーパンツのウエスト部分に指先を引っ掛けると、何も言わずにズルリと下に指を滑らす。 すると当然ボクサーから俺の勃ち上がったモノが出てくるワケで……。  「なッ、にしてッ……!」  「ン~、前から思ってたんだが、結構良いモノ持ってるよな、君」  「は、ぁ?」  ボクサーから出てきた俺のモノをマジマジと見ながら橘が呟く。  ………、何言ってる?  橘が何を思ってそう言っているのか意味が解らなくて俺は戸惑うが、おもむろに奴は俺のモノを握ると  「配信でも見てたが、平均より大きいよな?」  言いながら握っていた手をスルリと先端へと移動させると、亀頭を四本の指で包み親指を鈴口の割れ目へとあてがうと、そのまま先端を親指の腹で左右に撫で始める。  「ッ、んぃッ……、やッ!」  首に回していた手に力を入れて、橘が着ている服をギュッと握り締めてしまう事しか出来ない。だって俺は今、『待て』とコマンドされているから。  動けない恥ずかしさに、上げていた顔を下げようと視線を下に向けると、橘の視線と絡んでしまう。  さっきまで俺のモノを見ていたのに、今はジッと俺の顔を見ているのだ。物言わぬ橘の視線は、熱を帯びた目で俺を見ていて、気まずさに更に視線を落とすと今度は厭らしく俺のモノを愛撫している橘の手が視界に入り、俺はギュッと目を閉じる。  「石川君、また私を見ないつもりか?」  その言葉に、ビクリと肩が震える。  顔を上げて、橘を見ないといけないのは理解しているが、羞恥心に顔を上げる事が出来ない。  ブルブルと震える俺に、また橘が溜め息を吐いて  「オイ、聞いてるのか?出来ないなら罰を与えるしか無くなるぞ?」  不機嫌そうにそう忠告してくる橘に、俺は首を左右に振る。  その瞬間、ピタリと愛撫していた手が動きを止めた。  俺は橘が諦めて止めてくれたのだと思い、安堵の溜め息を吐き出すと  「君、終わったと思ってるな?配信で知らない相手に散々自分の痴態晒して、ちんぽ扱いてる君が、この位で無理なワケ無いよな?」  言いながら橘は、亀頭を握っていた指に力を入れる。  「アッ……、やめッ……いた、痛いッ」  勃って張っている先端をギュチリッと握られ、俺は声を荒らげて橘を見るために顔を上げると、口の端を上げて欲情に駆られた雄の顔が目の前にあり、俺はヒュッと息を飲む。  視線が合ったと同時に、キツく握られている俺の先端からまたトロリと先走りが漏れてしまう。  「ん?痛いのが好きか?」  溢れ出した先走りを輪っかにした指に絡め、キツさはそのままに亀頭だけを重点的に扱き始めた橘に俺は  「イヤッ……、止めッ……」  止めて欲しくて、顔を見ながら懇願する。  「何が嫌なんだ?」  その先を言わせようと、ジッと俺の顔を見詰めながら橘は聞いてくるが、俺はうまく言葉を発せられない。  ハクハクと空気を噛むみたいに口を動かしていると  「言わないなら、このままだぞ?」  と、楽しそうに橘は言う。  「……ッ、ンゥッ、い、てぇのは……嫌だ」  痛さと快感に、眉間に皺を寄せながら俺は呟く。と、橘はキツく握っていた手を緩めて  「そうか、なら優しくしよう」  そう言うと、次いでは緩めて俺の先走りでぬるついた手で、クチュクチュと音を立てながら先端を扱き始めた。  「………、痛いよりも優しい方が好きか……」  独り言なのか、俺に聞いているのか解らなくてジッと橘の表情を見ていた俺に気付いたのか  「ん、どうした?痛くないだろう?」  フワリと優しい顔で呟かれ、ブワリと更に自分の顔が赤くなるのを感じて、俺は視線を彷徨わせる。  強弱をつけて亀頭からカリの部分を責められ、時折鈴口を指の腹で撫でられる。喘ぎそうになるのを必死に堪えていると  「声、詰めずに出せばいいぞ?」  言いながらスルリと伸びてきたもう片方の手は、俺の頬を撫でた後、首筋や耳を愛撫する。  俺はその愛撫にビクビクと体を震わせ、限界が近い太腿は痙攣している。  「ハッ……、あぁ……、クッ、イク……ッ」  唇を震わせながら小さく呟いた途端、パッと先端を弄っていた手が離れると  「ところで、セーフワードは何が良いだろうか?」  なんて、質問。  「は、……、はぁ?」  もう少しで気持ち良く射精できたのに、今それを聞くのか?  イケ無かった俺のモノはビクビクと震え、ツっと先端から糸を引いた体液は、橘の服を汚した。  「セーフワードだ。希望はあるか?」  イキたいのに……ッ今、出したいのに……。  イキたいという欲が勝っていて、他のことなんか考えられない。  「……ッ、無い……、何でも、良い……ッから、イキたい……」  素直な欲求を口にした俺に、首筋や耳への愛撫はそのままに、橘は口を歪めると  「大事な事だ、考えなさい」  俺が答えなければイカせないと、ジッと見詰めている目が言っている。  俺はグッと奥歯を噛み締めて、快感をやり過ごそうとするが、無意識に腰が動いて橘の手に擦り付けようとする。だが、それに気付いた橘は俺のモノが触れる瞬間に手を引いて  「ホラ、何がいい?」  言いながら俺に見せ付けるように、俺の先走りで滑った指先を自分の口に持っていき、そのまま舌を伸ばして濡れた指先を舐めていく。  その光景に俺は煽られ、イキそうなモノがビクリと反応し、再びツッ~と先走りが先端から漏れてしまう。  俺は一度ハァ、ァ~ッと熱い吐息を漏らし  「……ッ、な、まえ……」  と、一言呟く。  「名前?私のか?」  俺の提案が意外だったのか、橘が聞き返してくるので、俺はコクコクと首を上下に振って  「アンタの……ッ、下の名前が、いい……」  「ふ、ん……」  提案に少し橘は考える仕草をして、次いでは  「イヤ、名字にしよう。プレイ中は下の名前で呼んでもらう」  良いだろ?と目が俺に語るので  「いい……、そ、れで良いから……ッもぅ」  イカせて欲しい。  「ン、じゃぁイカせてやろうな?」  橘からのお許しが出て、これでイケると思ったが、橘は俺のモノを握ってくれない。  何故か解らず視線を下に向けると、舐めていた手を輪っかにしたままで  「自分で腰、振りたかったんだろう?良いぞ、好きに振って」  と、ニヤリと笑って俺に言う。  先程俺が自分で腰を動かした事がいけなかったのか、橘からは俺の体に触ってはくれない。けれど射精したい欲求が強すぎて、俺は橘が作った輪っかに自分のモノを押し付け、ユックリと腰を動かす。  「ンゥゥ~ッ……、あ゛ッ……、ハァッ」  躊躇いながら腰を動かしていたが、気持ち良さに徐々に動きが早く激しくなる。橘も俺の動きに合わせて、緩く握っていた手に圧をかけてくれると、もう堪らなくなって  「い゛ッ、イクッ……、イク、イクッ」  一度大きく腰を手に打ち付けると、俺は奥歯を噛み締めて動きを止めた刹那、ビュルルッと白濁の液が橘の服を汚す。  橘は俺が出し切るまで、何度か手を動かしてくれていて……。  快感にクラクラと目が回り、俺は覆い被さるように橘の体に体重をかけると、奴は無言で俺の上半身を受け止め  「初めてのプレイで上手くイケたな、良い子だ」  とチュッ、チュッと音を立てて俺の髪にキスを落として、俺ので汚れていない方の腕を俺の背中に回してトントンと優しく叩いてくれる。  俺は褒められる嬉しさに、橘の首筋に顔を埋めて何度か顔を左右に振ると、それが面白かったのか橘は、ハハッと笑う。  テーブルにあった台拭きで手を拭っている気配に、俺は橘から体を退けようと起き上がりかけると  「なんだ、君を甘やかしては駄目か?」  なんて言うから、俺は再びトサッと橘に体重をかける。  「ん、でもコレはしまおうな」  と、伸びてきた手で萎え始めている俺のモノをボクサーにしまって、パンツのジッパーとボタンを閉められ、自分の服にかけられた俺の白濁を再び台拭きで軽く拭うと、はぁ~。と橘は溜め息を吐き出して俺の頭を自分の胸に押し付ける。  「上手だったな」  俺の頭を撫でながら、橘がそう呟く。  俺は戸惑いながらも  「……、本当、か?」  消え入りそうな声で確認すると  「あぁ、初めてなのに良く私の言う事が聞けてた」  「そうか……」  頭を撫でていた手が、抱き締めるように背中に回って、俺は安心感にポヤポヤとした感覚に包まれる。  気持ち良い。ぬるま湯に浸かっているみたいだ……。  「ハハッ、サブスペースにも入れるのか、偉いな」  優しい声音で囁かれ、俺は自分が初めてサブスペースに入った事を知る。  サブスペースとは、プレイ後にDomのコントロール下に入ったSubが多幸感に包まれる事を言う。  長年ノーマルとの付き合いや、Domを避けてソロプレイをしてきた俺には、馴染みの無い感覚。画像や聴覚で無く、ましてや玩具や無理矢理でもない生身のDomとのプレイは、俺の想像を遥かに超えて気持ち良いものだった。  「なぁ、一つ聞いても良いか?」  「ん?」  「君が一番Domにしたくない行為ってあるか?」  抱き締められている気持ち良さに、俺の思考は普段の半分位しか機能していなくて、普段ならきっとこの質問には答えていないと思う。それは俺がDomに襲われた時、無理矢理強要された事だから。  「あ~~……、フェラ、かな」  「そうか……」  だけどこの時の俺は、本当に気持ち良さに浸かっていて、ほぼ無意識に出た台詞だった。けれどそれ以上橘は何も言わずに、ただただ俺を抱き締めていた。

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