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第13話
『ヨル、元気?最近、配信してないみたいだけど、もしかして恋人できた~?』
「あ、あ~~………、イヤ、できてません」
久し振りのオフの日に、アダルト配信をしている事務所の社長から電話がきた。
社長が言うように、最近の俺は配信を止めている。それは橘とプレイをするようになって、配信の必要性が俺の中で無くなってきたからで………。
『え?何か濁してない?』
含みを持たせた俺の物言いに、すかさず反応する社長に俺は苦笑いで
「なんつ~か、微妙なところで……?」
『何よ微妙って、しかも疑問系だし』
俺が所属しているアダルト配信会社ラビリンスのやり手女社長。
ノーマルながら、Dom、Subの理解もあり、女性ならではの気遣いで女性キャストのフォローも上手く、この業界ではトップクラスのキャスト在席数の事務所を経営している。
バーのママから、このラビリンスのスタッフを紹介されて社長と会った時は、正直男性では無い事に驚いた。
性を扱うこの業種は、華やかな反面怖い面も勿論ある。なので、雇われ店長みたいな感じで女性の人はいるが、雇用する側に女性がなるのは珍しいからだ。しかも俺と同い年。
社長と知り合ってから一年と少しだが、サバサバとした性格で俺は気に入っている。
男勝りな性格だし、この業界で生き残ってこれたのも、負けん気の強さと心遣いのバランスが良いからだろう。
「あ~~……」
ガツガツと聞いてくる社長に、俺はどう答えたものかと逡巡していると
『あ、好きな人でもできたとか?』
「イヤ……………、振られました、ケド……」
『エェッ!?』
電話口で大きく叫ばれ、俺はスマホを耳から少し離した。
そうなのだ。先日俺は橘に振られている。
う~ん、振られたと言って良いのかどうなのか……、微妙なところなのだが。まぁ、保留にされてる時点で望み薄なのは理解できる。
先日橘とのプレイで、俺はフェラチオとイラマチオを試したワケだけど……、以前のDomとの行為でトラウマだったフェラを橘とのプレイで解消できた俺は、衝動的に告白していた。
俺の中でのDomのイメージを変え、信頼関係を俺と築いてくれて、プレイでトラウマまで克服してくれる。
全て俺の為に骨を折ってくれた橘の事を好きにならないワケが無かった……。
だから、告白した。
まぁ、多少の自惚れみたいなものがあったのは確かだ。
最初から橘は俺に興味を持っていたし、他のDomとは違う自分を見て欲しいとも言われ、橘から俺とのプレイを提案してきてきたから、当然スムーズに付き合えると高を括っていたのに
『……、すまない少し考えさせてくれ』
なんて答えで……。
言われた方の俺は、恥ずかし過ぎて言葉を無くした。冗談だって誤魔化せない程には、衝動的でも自分の気持ちは真摯に伝えていたから……。
『私、マズイ時に電話してる?』
気まずそうな社長の声に、俺はハッとなり
「イヤ、全然大丈夫なんだけど……、ちょっと時間が欲しいかなって……」
橘とのプレイで満たされているのは確かだ。だからわざわざ配信をしようとも思わなくなった。だが、俺が告白してから橘とのプレイが無くなったので、どうしようかと迷っていたのも事実だった。
『デリカシー無くてごめん。まぁ、そういう事なら、気持ちが立ち直ってから配信してくれれば良いから!あ、くれぐれもフェードアウトだけはしないでよ?』
「ハハッ、了解。……またできそうなら連絡するから」
『解った~。早く次、見付けなよ!』
笑いながら社長は電話を切ったが
「イヤ、次見つけても困るダローが……」
と、俺は呟く。
社長が言っていたフェードアウトはするなって台詞は、恋人や好きな奴ができたキャストが飛ぶ事を恐れての事だ。一定数ファンを獲得しているキャストが、それを理由に飛んで配信を止めれば、会社自体の信用問題になってくるから、だから最近配信をしなくなった俺に、こうして連絡があったワケだが……。
「まぁ……、しようと思えばできるけどさ」
そう……しようと思えばできる。告白してから橘からプレイの誘いは無くなった。更に言えば夕飯を一緒に摂る事もだ……。
「……………、そんなに駄目だったかよ……」
告白してからあからさまに避けられていて、俺と橘との間にはどれほどの感情の違いがあったのか思い知らされる。
考えさせてくれ。と言われたが、ここまで避けられれば馬鹿でも望みが無い事くらい理解する。
「…………、言わなければ良かった……」
愛猫のティーを抱きながら、俺はズルズルとクッションにうもれていく。
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