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第9話

 本当に身体中が痛く、未だに頭痛もある。強い酒を飲ませてきた宮にイラつきながらも足早に帰路に付く。  あの後仕事の打ち合わせの通知がスマホから鳴った為、引き止める宮を置いて急いでホテルを出たのだ。 ーーー数分前 『ね~、次いつ会おっか?』 『おい、なんで会うの前提で話を進めてるんだよ』 『そーんな体にした責任取らせて欲しいなあ』 再度尻を撫でようとしてきたためパシッと手を払う 『いいか?俺とお前は恋人でもなんでもない。ましてや俺はタチだ。お前に抱かれたのは屈辱でしかない』 『・・それ本当に言ってる?あんなのもうほぼ和姦じゃん?』 きょとんとした表情で宮は言うのだ。 ーーまあ若干図星ではある。それは認めよう。 認めるが、だからと言って大人しく受け手に回るのは宮の思い通りになったみたいで嫌なのだ。 『と・・とにかく、もう二度と俺に関わるな!』 と、半ば一方的に突っぱねて宮を置いてホテルを出た。  流された俺も俺だが酒を飲ませてきた宮のせいだ。あれは和姦なんかではない。多分・・ ・・・まあ、恐らくこれでもう宮と関わることはないだろう。 というか、ここはどこだろうか。一旦家に帰りシャワーを浴びて身支度を整えたいところだ。  マップを開こうとスマホの画面を付けると、その光景に目を疑った。 ーーどこぞのストーカーかと疑うほど瞬から着信履歴とメッセージがきていたのだ。 ・・・・・瞬には申し訳ないが、打ち合わせまでに本当に時間がない。後で電話をして謝ろう。  宮とのことはなんとしてでも悟られないようにしなければと心の中で決意する。 ***  なんとか間に合い、仕事の打ち合わせが終わった。瞬に連絡を取ろうとスマホを見ると、着信履歴とメッセージが更に増えていた。 さすがにここまでされるとドン引きではある。だが親友としての俺を心配してのことなのだろう。連絡をしようと瞬の名前をタップし通話ボタンを押す。 ーープル・・ガチャ 出るのはやっ そう思った心の声を押し殺し、「もしもし?」とスマホを耳に当て問いかけると、開口一番に「今どこ?!大丈夫か?なにもされてないか?」などと色々問い詰められたため、とりあえず今いる場所を教えた。すると、「すぐ行くから待ってろ」と言われた為、とりあえずその場で待つことにした。瞬が来るまでに昨日のことを何か聞かれたら答えられるようにしておかなければ。 ーー数十分後 「和夏!」 ーー呼ばれて振り返ると走って来たのか、肩を上下させ息が上がっている瞬がいた。俺の為にここまで走って来てくれたのかと思うと、先程ストーカー扱いしたのが少々申し訳なくなる。 「おい、髪が乱れてる。男前が台無しだ」 「いやいやいや、お前が連絡無視するから!心配で急いで来たんだからな!」  声を荒らげる瞬に悪かったなと言いつつ駆け寄ると、俺より少し背が高い瞬の髪を手ぐしで直してやる。青みがかったさらさらな黒髪からふわっとシャンプーの香りが漂ってきた。もっと近くで香りを嗅ぎたくて顔を近付けると、 「・・ちっ、近い、近いって!自分で直すから!」と 慌て気味に離されてしまう。もっと近くで嗅ぎたかったが残念だ。  近くにあったベンチに2人並んで腰掛け、直し途中だった髪を整える瞬。そして ーーところでだ、 と俺に向き直るのだ。 「昨日一緒にいた奴は誰?声も聞こえたがどうした?」 「・・・俺もよく分からない奴。寝取り終わった後にストーカーに遭ったところを助けてくれた人。声は飲み過ぎてえづいた時に出たのかも」 「ストーカー?!大丈夫なのか?!」 「多分大丈夫だと思う。用心してしばらく寝取りもやめるし」 「・・そうか。昨日の夜連絡を返さなかったのは?」 「・・気持ち悪くて横になったら寝落ちた」 「今日の朝すぐ連絡しなかったのは?」 「寝すぎて仕事の打ち合わせに遅刻しそうになったから」  圧迫面接かと思いながらも、あらかじめ怪しまれないよう用意しておいた解答で質問全てに答える。すると瞬は少し納得してくれたようだった。重要なことは伏せたが変に勘ぐられなくて良かった。おおよそ事実なので嘘はついていない。 多分。 「あー、・・・・・本当無事で良かった。まじで心配したんだからな。寝取りも一旦やめるなら俺も一安心だ」 「本当悪かったな。埋め合わせは必ずするから・・」 「まじ?ならさ、今から家行っていいか?最近行ってなかったしさ」 「いや、・・悪いけどこれから在宅の仕事するから」 「デザイナーだよな?絶対邪魔はしないから・・!」  迷ったが、今回のことで心配かけたのでこれくらいのことで埋め合わせになるなら、と了承することにした。  俺の仕事が終わったら一緒に何か食べようと買い物をしてから家に行くことにした。 ***  他愛もない話をしながら店に向かう。すると 「和夏、襟立ってるぞ」 と、瞬が首に手を伸ばしてきたので大人しく受け入れた時だった。 「ーー和夏、・・・昨日は介抱してもらっただけなんだよな?」 「っえ、・・!な、んの話?」 ーーまさか、ぶり返されるとは思ってなかった。 「・・・これ、首にキスマークっぽい跡が」 あるんだけど、と指先を首に触れられる前に反射的にバッと首を手で覆う。  まさか、朝にからかわれて首を舐められた時に付けられたのか・・・。  まずい。これは本当にまずい。親友である瞬には余計な心配をかけては駄目だ。決して悟られてはならない、と必死に頭を回し言い訳を考えた時だった。 「あれえ?和夏くんじゃーん」 ーー振り返ると、そこには確かに今回の騒動の主がいたのだ。 なんてタイミングで現れるんだこいつは、と心の中でうなだれるしかなかった。

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