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side.Tamotsu
『こんにちは、佐藤 保クン?』
待ちに待った文化祭当日。
その理由は勿論、僕のクラスで出店する模擬店…
3-6は食堂をやると言うことで。
母子家庭で培った、唯一の取り柄でもある料理の腕を、振るえる事にあったんだけれど…。
実際は恋人…である上原君が、僕の為に初めてサボることなく文化祭へと参加してくれる事になったから…っていうのが、本音だったりする。
口では面倒くさそうにしてたけど。
僕が一緒に見て回りたいな~って、必死でお願いしたら…なんだかんだ乗り気になってくれたみたいで。
しかも上原君のクラスで出す喫茶店では、なんと綾ちゃんと共にウエイターをやることになったって言うんだから…ビックリしちゃった。
なんでもそのお店が、いわゆるメイド喫茶的な趣向のようで…。ふたりともちょっとしたコスプレをさせられるんだとボヤいていたから。
それが何気にメチャクチャ楽しみで。
僕は裏方に勤しみながら鼻歌まで口ずさみつつ、浮かれ気分でいた───…
……んだけど、ね。
「佐藤 保くん、だよね?」
開店と同時にやって来た他校の生徒に、僕は名指しで呼ばれて。
「そう…だけど、えっと…」
その男の子は少し僕より背が高いくらいの、華奢な子で。
フワフワっとした茶髪に、透き通った肌。
にっこり笑うと睫毛がふるりと揺れるほど、パッチリした二重の…女の子みたいに可愛らしい男の子、だった。
お洒落なブレザーの制服は、確か近場にある名門校の物で。一度会ったらまず忘れないような、眩し過ぎるくらいの美少年、なんだけど…
僕にこんな華やかな知り合いはいないし。
名指しで話し掛けられるような覚えが、全く見当たらなかったから。
どうしていいか判らず、言葉を濁していたんだけど…
「カレとはクラスが違うんだね?」
そう言われ…真っ先に浮かんだのは、上原君の顔。
思わず反応して、あっと声を上げてしまう。
「…もしかして上原君のお友達、なのかな…?」
上原君には親しい友達は殆どいないって話だったし。今日だって友達が来るなんて話は、ひと言も聞かされてなかったけれど…
「ん~…そんなトコ、かなぁ。」
その子はなんだか意味深な物言いと、含み笑いを浮かべ肯定して頷いたんだけど。
曖昧なその態度が、僕を落ち着かなくさせるのは、
何故なんだろう…。
「キミってさ~…上原くんと付き合ってるよね?」
「え…?」
初対面でありながら直球で核心に迫る少年に、
僕は絶句する。
それも親しみを込めてなら…まだ軽く受け流せたかもしれない、けど。
なんていうか、この子────…
端から見れば、とっても人懐っこく笑うコ…なんだ。
でもこういう作り笑いって、なんとなく判っちゃうから、僕…
「上原くんてさぁ、カッコいいよね~。」
そんな僕の心情を承知の上か…。
彼は追い討ちを掛けるような台詞を、並べてくる。
「ああ見えて意外と優しいし?イケメンだけあって、手慣れてる感あるよね。」
「…………」
僕は愛想笑いも忘れ、あからさまに不信感を露わにする。
それを認めれば、少年はクスクスと目を細め…
更に僕の心を揺さぶった。
「まあ彼…女の子だけじゃなく男ともシたことあるみたいだし?実は僕も、彼とは色々あったからさ──…」
胸が痛くて、息してるかも判らないくらい苦しくなって。
そんな僕の動揺が、表情にもはっきり出てたんだろう。少年は繕ったよう、わざと言葉を濁す。
「ごめ~ん、今のナシね?彼にも内緒にしといてくれる?昔のコト、気にしてるみたいだし…さ。」
謝罪を口にしながらも、
少年の目に悪びれた様子は全く感じられず。
僕は反論しようとしたのだけど────…
「佐藤~注文入ったぞ~!」
「あらら~お邪魔みたいだし、もう行くね~。」
僕がクラスメイトに呼ばれた途端、その男の子は逃げるようにして。
あっという間にいなくなってしまった。
「どうした、佐藤?」
「ううん…ごめん、今いくよ!」
茫然とする僕に、クラスメイトが心配そうに声を掛けてくるも…。余裕の無い僕は、曖昧に返事をするしかなく。
頭の中は少年の不可解な台詞に対する不安で、いっぱいだったけれど…とりあえず今は、考えないでおこうと自分に言い聞かせて。
慌てて僕は、持ち場へと戻っていった。
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