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side.Tamotsu
少し前に上原君から明かされた、
初めて抱こうとした男の子…の話が頭を過ぎる。
それは上原君自身がゲイなのかを確かめる為で。
結局、何にも無かったって…上原君は言ってたけど。
さっきのコはそれを確かに否定していた。
名前も知らないような彼の言葉を、そのまま鵜呑みにする気はないけれど…。
ひとつの可能性が彼と重なるものだから。
僕の不安は、そう簡単には消えなくなってしまった。
(大丈夫、上原君は絶対に嘘なんか言わない…)
解ってる…けど。
いざ現実を目の前にしてしまうと。ちっぽけな自分は、つい悪い方へと考えが偏ってしまって。
大事な人まで疑ってしまうから、ダメだ…。
(あのコ、何しに来たのかな…)
もしあの少年が予想通りの相手、だったとして。
それだってもう半年も前の話。
後にも先にも一度きり。その後は一切会ってないって、上原君だって言ってたんだし…。
相手のコを凄く怒らせたみたいだから、報復って可能性も考えられるけど。
だったらなんで今更───…
(上原君…)
惚れた弱み。
僕は上原君に縋っていくしかないから、怖い…。
不安の正体が、あまりにも曖昧で不確定だから。
余計に考えずにはいられないんだ。
大好きなヒトを、ただ信じていればいい。
それが簡単に出来ちゃうほど僕は器用じゃないし、
自信なんて微塵もないから…
ホント、自分が嫌になるよ。
(キレイなコ、だったな…)
ぼーっと先程の少年を思い浮かべ、悶々と自分の殻に閉じこもっていると────…
「佐藤っ、焦げてるぞ!!」
「へ……わわっっ!!」
オーダーされた物を作ってる最中だった事も忘れ、
クラスメイトの叫び声にハッと我に返れば。
目の前のフライパンからは、真っ黒な煙りがモクモクと立ち込め…食材は無惨にも炭と化していた。
「ホント大丈夫かよ、お前?」
自己嫌悪にぼんやりと溜め息を吐く僕を、心配そうに見やるクラスメイト。僕は曖昧に返事して、
「うん……ゴメン、僕ちょっとトイレ行ってくる!」
「え?ちょ……佐藤~!!?」
言って駆け出す僕にオロオロし始めたクラスメイトと、焦げたままのフライパンを放置して。
僕は制止の声も聞かず、教室を飛び出した。
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