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side.Tamotsu
「よお、保。」
思わず教室を飛び出し、足を向けた先は…
言うまでもなく上原君のクラスで。
無我夢中でここまで走って来たものだから。
3年1組の廊下が大変な行列になっていたのさえ、全く気付けなかった。
早速教室の入り口から愛しい人を発見し、固まる僕。
(わわっ~……コレはっ、反則だよ───…!!)
喫茶店の店員風に正装すると聞いていたから、
何となく想像して楽しみにしてたけど。
そんな僕の想像力が追いつかないくらいに、
目の前の上原君は…
とっても素敵でした…。
トレードマークの金髪の襟足には、同色の長い付け毛があしらわれており。緩くウェーブしたそれは天鵞絨 のリボンで無造作に結われていた。
切れ長の瞳の中心はコンタクトレンズでも入ってるのか、深くて濃いブルーに変わっていて…。
まるで本物の外国人みたいに、スッゴく似合ってる。
格好は薄紺のシャツに黒ベストを羽織り、少しはだけた首元には短めのネクタイが気持ち程度に締められてて。
腰履きにしたエプロンが、更に男の色気を際立たせていた。
まさに異国の王子様。
上原君だけが切り抜いたよう、別世界の空気を纏ってて…。
僕がここに来た理由も、忘れてしまいそうになるくらいに。それはもうキラキラと、光り輝いてた。
僕を認め、気怠げに息吐く姿がまた哀愁を漂わせ色気全開で惚れ惚れしちゃう。
…がしかし、そんな現実逃避も一瞬で引き戻されてしまう。
何故なら、ざわざわと賑わいをみせる1組の教室内。その大半は女性客であり────…
視線の中心は明らかに上原君へと、注がれていたのだから。
その気持ちは充分解るよ?
けど彼はその、一応僕の恋人…なワケで。
あからさまな色目を使われちゃうと、いくらなんでもヤキモチ灼いちゃうよね…普通。
「忙しそうだね…」
直視するにはあまりにも眩し過ぎるので、上目遣いにチラチラと上原君を盗み見る。
予想外の客足の多さも、きっと彼の功績なんだろうけれど。全く自覚のない上原君はウンザリと頭を抱え、愚痴を零していた。
そんな時に僕は何してんだろう。
つまんない事で引き止めてしまい、なんだか申し訳なくって。
浮上したテンションが一気に急降下していく。
せっかく上原君が僕の為にと、学校行事に初めて真剣に取り組んでくれてるというのに…
ホント浅はかだな、僕は。
頭の中で反省しつつも、あの事がまた気になってしまい…慌てて教室を見渡す。
室内は相変わらず、お客さんで犇めいていたけれど。
どうやらここには来てなかったみたい、良かった…。
「どした?」
そんな僕の、不振な行動に首を傾げる上原君。
どうしよう…気になるし、やっぱり聞いてみようかな?…とか、僕が迷っていると────…
「上原、すまないが早く戻ってくれ!」
上原君と同様にウエイターに扮した綾ちゃんが、
奔走しながら慌てた様子で叫んできた。
「保?」
それでも僕の異変に気付いた上原君が、心配そうに声を掛けてくれたんだけど…
「ううん…何でもないよっ…」
内に抱いた蟠りを、無理に仕舞い込んで。
僕は精いっぱい笑顔を作ってみせた。
こんな事で、いちいち困らせたくないもんね…。
でも上原君は勘が鋭いから、何となくバレちゃってはいるんだろうけれど。
僕が言わないなら、そこは敢えて確執には触れてこず。さり気なく見せる優しさに、ついつい甘えたくなってしまった。
だから早くその場を去ろうとしたんだけど───…
「あっ…」
ふいに上原君の大きな手で、くしゃりと頭を撫でられる。
それから僕の顔を覗くよう身を屈めて。
内緒話するみたいにそっと、
「後でデート、しようぜ?」
いつもの何百倍もの無敵スマイルを僕だけに寄越し。
殺し文句で以て、骨抜きにしてくれちゃうものだから。
「…うんっ!!」
僕はみっともないくらい顔を綻ばせ、
手をブンブンと振って、その場を後にした。
上原君との、最初で最後の文化祭だから。
今は、今だけは…嫌なこと全部忘れて楽しみたい。
それからたくさん、ふたりの思い出を作っていこう…
そう自分を奮い立たせ、不安の種を隅っこに押しやった僕は。急いで自分の教室へと戻っていった。
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