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side.Akihito
「上原君、お疲れ様~。休憩入っていいよ。」
昼のピークを終え、仕事に慣れてきたクラスメイトにも余裕が出てきた頃。
店もスムーズに回転し始め、場を仕切る実行委員長からようやく休憩を貰い…俺はひと息吐く。
「あ、ソレは絶対脱がないでね!模擬店回るなら、店の宣伝になるから~。」
俺がすっかり丸くなったってのもあるが…
クラスのヤツらも、随分と普通に接してくるようになった気がする。
もしかしたら、文化祭っていう場の雰囲気によるもんかもしれねぇが…こういうのも意外と悪くねぇな、とか思っちまう。
改心するきっかけは、水島ではあったけど。
今となっては保との出会いが、一番の刺激になったんじゃねえかなと…しみじみ感じた。
いきなり不意打ちで好きだと告られ、アイツを意識するようになって。
正直今では、俺の方が…夢中になってる気がする。
比べるわねじゃねぇけど。
水島を好きだった時とは全く意味が違うんだよな。
こんな事言ったら、アイツは真っ赤になって否定するだろうけど…
俺はマジでアイツにどっぷりと、溺れちまってんだ。
だから、保が元気なかったりすると…
こっちまで切なくなっちまって。
なんとかしてやりたいって、本気で思う。
アイツは変なとこでマイナス思考だから。
ホントはこういう他人に気を遣うとか、スゲェ苦手なんだけど…
保の場合は思ってる事は、ちゃんと声に出して。
全身で伝えてやらねぇとダメなんだなって。これまでの経験上、思い知ったんだ。
目立つ格好を物ともせず、保のクラスを目指す。
途中何度も一般客の女に声を掛けられ、邪魔されそうになったが…。
それらは完全無視し、まっすぐに恋人の元へと急いだ。
アイツ、なんかまたヘコんでたみてぇだから。
引きずってなきゃいいけどな…
「あ───…保いる?」
教室までやって来て、入り口付近の適当な生徒を捕まえる。
余所のクラスでまだ免疫もねぇからか。
俺に呼び止められたソイツは、あからさまにビクつきやがったけど。
「えっと…今、着替えてて…もっ、もうすぐ終わると思うけどっ…」
「着替え?」
問い返すと、ビクビクしながらも律儀に説明してくれた生徒。
なにやら、うちの店の評判を聞きつけたようで。
保のクラスである6組もそれに対抗し、急遽コスプレをする事になったらしいんだが…。
「それで急いで用意した衣装が、女モノサイズしかなくて小さくてさっ。クラスで一番小柄で痩せてる佐藤くらいしか着れないってなって…。それがねっ、もうスッゴいんだよ!」
すぐ呼んで来るよ!と、急にテンション上げて奥へと消えて行くソイツ。
ん…?てことは保が────…
『えっ!ウソッ…上原君来てるの!?』
暫く待ってると、衝立で仕切られた所から保の慌てた声と、野太い歓声が響いてきて。
『とりあえず宣伝用に、この名札も付けて…上原来たなら、先に休憩してもいいからっ。早く行け佐藤!』
『でもっ、こんな格好じゃ…』
『いーから、自信持てって!』
裏でクラスメイトとやり取りした後、
強制的に姿を現した保に────…
「なっ…」
俺は思わず、絶句していた。
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