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side.Akihito
「せっかくだし、色々見て回ろうぜ?」
そう告げて俺は往来にも関わらず、堂々と保の手を取り指を絡める。
最初は恥ずかしげに、その手を穴が開きそうなほど凝視していた保も。すぐに表情を綻ばせ、ぎゅっと握り返してきたから…
俺達はそのまま並んで歩き出した。
互いに目立ちまくる格好な所為で、いつも以上に生徒や一般人の視線を集めていたが。
文化祭っていう特別な空間の賜物か、逆に気にもならなず。寧ろ自然体で恋人同士の雰囲気を見せつけてやりながら、ゆっくりと廊下を闊歩してみせる。
「あっ…ねぇ、芝崎君とこに行ってみようよ!」
ゴソゴソと律儀に『佐藤 保』と明記された文化祭のしおりを取り出して、ウキウキと笑う保。
さっき俺の教室で見せたアレは、気の所為なんかじゃねぇんだろうけど…。
幾分か元気を取り戻した様子の保に安堵しつつ、俺も保が開いたしおりを覗きこんだ。
「確か2-4だったか?お、射的か…面白そうだな。」
クラス紹介ページに記された、陳腐なイラストを眺めながら言うと。
「じゃあ決まりだね。行こ!」
保もにこやかにハシャぎながら、グイと俺の手を引いてくる。
そんな些細な事に、いちいち幸せを噛みしめつつ…
保に促されるまま、俺達は芝崎のいる2年の教室を目指した。
「わわっ…!?一瞬、誰かと思いましたよ~!」
2年4組の教室付近までやって来ると。
一際デカい生徒が、賑やかに客の呼び込みをしてるのが目について。
ソレがどっからどうみても芝崎なんだと、すぐに判る。
「ホントお前は、お祭り人間って感じだよな…。」
呆れと感心を織り交ぜ告げる俺。
芝崎は威勢良く頭にタオルを巻いていて。
如何にもな法被を纏い、爽やかスマイルを武器に惜しげもなく客へとソレを振り撒いていやがった。
7割くらいが、コイツ目当てと思しき女性客。
男子校の文化祭ともなると、何処も一緒だな…と。
何故か俺にまでキャーキャー騒ぎだすもんだから、
ほんとマジ面倒くせぇ…。
「こういうの、好きなんスよね~。」
ニカッと無駄に白い歯を見せ、はにかむ芝崎に釣られ。近くにいた女共が騒ぎ出す。
たく…水島が見てたらどうすんだ?
少しは自重しろっての、この天然タラシ犬はよ。
「芝崎君とこも大盛況だね~。」
今まで黙って店を見渡していた保が、長身の芝崎を仰ぎ見て微笑む。
すると芝崎は更に眉山を引き上げて。
食い入るように目を見開くと、保へと顔を寄せて来た。
「やっぱり…佐藤先輩、なんスよね?上原サンと手を繋いでたから、そうだろうとは思ってたんスけど…」
物珍しそうに、保を上から下まで観察し出す芝崎。
「いや~佐藤先輩、マジ可愛いッス!最初は誰か判んなくて、ビックリしましたよ~。」
そう言った芝崎は、何を血迷ったか…。
いきなり保の頭をなでなでしやがったもんだから、
…堪ったもんじゃねえ。
「わわっ…!」
耐えきれず俺はムッとなり、
保の肩を抱き寄せ、芝崎から遠ざけると。
「人のモンに気安く触んじゃねぇよ。」
我ながらダセーとは思いつつも。
この駄犬には、はっきり言ってやらねぇと解らねぇだろうから…
俺は不機嫌剥き出しに、芝崎をジロリと睨み付けた。
「あっ、すんません!そんなつもりじゃなかったんスけど…」
解ってるさ、んなコト。
お前が水島にベタ惚れな事くらい…
申し訳なさそうに頭を掻く芝崎に呆れつつも、
俺は「別にいいけど」とひと言返す。
「んな所構わずタラシ込んでっと、水島をまた泣かせちまうぞ。」
気をつけろよと忠告してやれば。
芝崎は素直に頷いて、また深々と頭を下げた。
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