16 / 117
14
side.Akihito
「うちは大々的に一般公開してるしね。地域でも盛り上げてるみたいだから、意外と反響スゴイみたいだよ~。」
くるくると巻かれた睫毛を瞬かせ、浮かれ気分で辺りを見渡す保。
今まで特定のヤツと付き合うとかねぇし。
ダチとでさえ、こうして並んで歩く機会も少なかったから。
保と普通に手を繋いでる、当たり前なこの状況に。
妙な擽ったさも感じていたが…
「そうか……なら惜しい事したな。」
「え?」
不思議そうに見上げてくる保に、んっと短く返事して。
「これが最後なんだなって思ったら…さ。」
思えば3年になってやっと、学生らしい事を満喫したような気がする。
夏休みだってそうだ。
保がいたから、良いことも悪いことも。
今は思い出として、懐かしむ事が出来るっていうか。
それ以前の事なんざ、つまらなすぎてちっとも思い浮かばねぇってのに。
ホント、不思議だよな…。
だからかな…。
これから卒業まであと半年───つっても3年なんて、冬休み以降は自由登校でその半分も残ってねぇけど。
少しでも保との高校生活を楽しめたらいいな、とか。柄にもねぇコト考えたりすんのも、存外悪くねぇもんだなと思えた。
珍しく俺が、しんみりするような事を漏らしたもんだから。
保まで何か考え込んで、俯いちまって。
慌てて話題を変えようと、口を開こうとした時───…
「…今からでもきっと遅くないよ。だから、一緒に楽しもうよ!」
ね?と照れ臭そうに見上げてきた保が、ぎゅっと繋いだ手に力を込める。
「保…」
普段はぼやっとしてて、危なっかしいクセに。
肝心なトコはしっかり見てるんだよな…コイツは。
「ああ、そうだな。」
どうせお前と出会ってなきゃ、今の俺は無かったんだ。
なら…今までムダにした時間をすべて覆すくらい、
ふたりでたくさん思い出作りゃあ、いいんだもんな。
「なら早く飯買いに行こうぜ?あんま遅くなると、水島が怖ぇからさ。」
自ら手を引き保を促す。
混雑する人ゴミの中、保を庇うよう進みながら出店を物色していると…
「ん…?」
「どうしたの?」
小さな保が人ゴミに辟易しながら俺を見上げてきて。
俺は雑踏の中、ふと違和感を覚えたその一点へと、目を凝らしたんだが───…
「いや……なんでもねぇよ。」
敢えて今はそれ以上詮索するのをやめ、曖昧に返事をし…。さり気なく保を抱き寄せ、隠すようにして先を急いだ。
(誰だ…?アイツ…)
俺や保の格好に、注目してるヤツが大勢いんのは判るんだが。
それらの好奇心といった類の感情とは、明らかに違い。何処か異質で、禍々しい感情の込められた視線に気付いてしまった俺は…
辿り着いたその正体に、忘れかけていた過去の記憶が無意識下で頭を過ぎる。
(どこかで…会った、か…?)
まさか。アイツとは何もねぇし、あれ以来会う事も無かった。
なら今更、何があるっていうんだ?
たくさん人が集まる文化祭だ、偶然かもしれない。
と…最も無難な結論で、無理やり納得しようとした俺の中で。
ふと教室を覗きに来た時の保が見せた、態度が蘇る。
今はすっかり元気そうな保。
目が合い微笑みかければ、恥ずかしそうな笑顔が返ってきた。
保が辺りに意識を飛ばしたのを見計らって、
もう一度その場所をこっそり確認してはみたものの…
まるで俺の気の所為だとでも言うかのように。
そこにはもう、違和感など存在しなかった。
ともだちにシェアしよう!