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side.Akihito
「好きだ、保…」
「んっ…僕も、大好き…」
バカップル顔負けに甘ったるい雰囲気を作り出し。
ぴったりと密着し、事後の余韻も相まって。
それにどっぷりと浸っていると…
「うぉっ…」
「上原君?」
突然、ポケットに突っ込んでた携帯電話が振動して。
放棄しかけた現実へと、強制的に引き戻されちまう。
「…あ────…やべ。」
「どうしたの?」
いつまでも震え続ける携帯の画面を見つめ、
苦笑する俺に保が小首を傾げる。
「いや…とっくに休憩時間終わってた。…ちょっと待ってな?」
どっと疲れが浮上し、溜め息を吐きつつも…。
俺は覚悟を決め、画面上に『水島』と表示されている携帯の通話ボタンを押した。すると…
『今何時だと思ってるんだっ、上原…!!』
「わわっ、綾ちゃんだ…!」
スピーカー越しにも関わらず、間近にいる保にまで聞こえるような、けたたましい水島の怒声に。
俺は思わず携帯電話を離し、耳を塞ぐ。
水島って意外と声張るんだな…。
コイツもだんだん性格変わってきたっつうか…
元々、俺相手でも怯まないヤツだったが。
最近は専ら小姑みたいになってる気がする。
コレもきっと、旦那の影響ってヤツかもな…
「あ~…悪ィな水島。保とイチャついてたら忘れてたわ。」
「ちょ…上原君っ…!!」
保の抗議を軽く受け流しながら、そう告げると。
受話器の向こうにいる水島は、呆れたようハァ~…と重たい息を吐き出す。
水島は親友の保にだけは、かなり甘い気がすんだよな。
『…仕方ないヤツだな。とりあえずすぐ戻ってくれ。お前目当ての客が殺到して大変なんだ。』
電話口の背後からは、何やら世話しない声が飛び交っていて。水島の様子からすると、その状況がなんとなく想像出来る。
『今、芝崎が代わりに加勢してくれてるから、何とか回ってるが…。出来るだけ早く頼む。』
『芝崎が?』
芝崎が、ね…。多分、水島目当てで顔出したところを捕まっちまったんだろう。
まあアイツは顔も悪かないし、タッパもあって女ウケも良いだろうから。このまま店番させても───…って、アイツだって水島と文化祭回りたいだろうし。さすがにそれは可哀相かもな。
「了解。すぐ戻るわ。」
返事して早々と電話を切り、立ち上がる。
すると保もフラフラしながら、慌てて腰を上げたんだが…。
なんだか色々と中途半端になってしまったからか、
寂しげな表情を隠すようにして、項垂れちまった。
「保。」
だから俺はコイツの名を呼びながら、少し強引に抱き寄せ、もう一度軽く触れるだけのキスをしてやり…
「明日…文化祭終わって一段落したら。またゆっくり可愛がってやっから…」
(んな顔されっと、今すぐ襲いたくなるだろ?)
「ッ…!!う、上原君っ…」
耳にワザと息を吹き込んでやれば…案の定顔を赤らめた保。
そんな可愛い恋人の手を引きながら、俺は屋上を後にした。
その後…教室に戻った俺は、水島にこってりと絞られ。運悪く巻き込まれた芝崎と一緒に、散々こき使われまくったんだが…
随分サボって教室に戻った保はと言えば…。
俺と一緒にいたと告げたためか、特に責められる事は無かったんだと…後々語っていた。
寧ろ秘めたる才能を開花させ。
その愛らしいメイド姿で以て、一般客はおろか…うちの生徒や教師までをも魅了しちまって。
模擬店では俺達3年1組に継ぐ、売上第2位を叩き出したとかなんとか。
思いがけず知名度を上げた保は、瞬く間に時の人。
男子校ならでは、野郎共の注目となり────
俺の不安は更に増す一方となったが…
そんな文化祭の騒動に紛れるようにして。
俺達のまだ気付かぬ所…
どす黒い不安の種が密やかに、けれど確実に。
ゆっくりとその芽を、覗かせ始めていた。
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