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side.Tamotsu
「なら、ちゃんと話せ。じゃねぇと解んねぇし。」
「う、うん…」
耐えきれずポロポロと涙が溢れちゃって。
僕は遠慮がちながら、上原君の背中に腕を回す。
お互い晒け出した肌が直に触れ合い、自分の心臓に重なってく確かなリズムと温もりに包まれ…
なんだか心が癒やされてくみたいだ。
「じゃ、今からな。」
「ふぇっ?」
涙が治まってきた頃、鼻を啜っていると上原君が待ち構えたよう僕に告げる。
「お前が嫌がる事はしたくねぇんだ。ホラ、言えよ。」
「えっ、でも…」
「俺ら恋人同士だろ?だったらお前も少し位、ワガママになっちまえばいいんじゃねぇの。」
そ、そんな事急に言われても────…
戸惑う僕に、上原君は至って真剣な眼差しを送ってくる。
だからここは覚悟を決めて。僕は恐る恐る口を開いた。
「え、と…じゃあ、ねっ……」
真正面から上原君の視線を受け、内心ドギマギしながらも続ける。
「ぼ、僕が見てる前でっ…そのっ、女の子と…仲良くしない、で?」
こんな大それた事、怖くて言えなかった。
僕なんかが上原君にとか、自惚れも甚だしいじゃんか…。
だから震える声を振り絞り、途切れながらも言い切ったら。
「解った。もう誰も近付けさせねぇから。」
拍子抜けかな、上原君はあっさりと僕のお願いを聞き入れてしまった。
しかも「次は?」だなんて催促までしてくるし…
一体どうしちゃったんだろ?
「あとはっ、」
そっか…きっと上原君はもう気付いてるんだ。
僕が今、本当は何に対して不安がっているのかを…
だからそれを待ってるのかもって、彼の眼が全てを物語っていたから。
「上原君が、前に…え、エッチしようとしたコとは、」
ホントになんにも無かったんだよね?って…。
いきなり過ぎる話題だったけど。
全てお見通しな上原君は、然して驚きもせず。
真っ直ぐ僕を捉えたまま「ああ」と頷くと…
「言ったろ?お前だけだって。信じてねぇのか?」
少しだけ怒ったように表情を固くした上原君に、
僕は慌てて首を横に振った。
「ならもう、気にすんじゃねぇよ。」
俺はお前しか要らない────…
上原君の言葉はいつだって、僕が欲しいと願うモノばかり。惜しみない愛情で以て包み込んでくれている。
なのに僕はいつまで経っても弱いまま。
寧ろ恋をして、更に女々しくなってしまったような気さえする。
まさに恋する乙女状態…ってカンジ。
でも仕方ないんだよ?
だってさ、上原君はこんな素敵なのに僕ときたら…
「ほらまた、んな顔しやがる。」
「うう~、だって上原君が格好良すぎるから~…」
脳内でひとり浸ってたら、ふにふにと頬を抓られてしまい。反論すると、上原君は盛大な溜め息を漏らす。
「あのなぁ~、俺だって醜い嫉妬とか…常にしてんだぞ?」
そう吐き捨てるようにして、僕をジロリと睨み付けてくる。
「俺はガード堅ぇからいいけど。むしろ危ないのは、お前の方なんだよ…」
と…文化祭のメイドがどうだとか、ブツブツ言い始めた上原君は。何かを思い付いたようにパッと顔を上げると、両手で僕の頬を包み込んでじっと見据えてきた。
そして…
「よし、俺からもお前にひとつ命令な。」
「え、なに…?」
緊張しながら次の台詞を待つ。
だけど僕に寄って来る女の子なんて、まずいないし。
命令される事に思い当たる点が、全く想像つかなかったんだけど…
「今後一切、俺以外の野郎の前で女装禁止。」
「…………へ?」
突飛な命令に僕は茫然とするも。
「いや…絶対しないでしょ、それ…」
あれは不可抗力ってヤツだし、僕に女装の趣味なんて無いんだからさ。そんな心配は無用だと思うんだけどな?
そう返しても、上原君はダメだの一点張り。
有無を云わさず頑なに、誓いを立てられてしまい…
「あんなの男子校で見せたらヤベェっての。たく…少しは自覚しろよ、保。」
ひとり頷く上原君に、僕は合わせて相槌を打つしかなく。
こうして僕には『女装禁止令』が下されたってワケだ。……って、アレ?
「でもそれって、上原君の前では良いってコト…?」
「当たり前だろ?それが恋人の特権ってヤツなんだからよ。」
…だなんて上原君はちょっぴりエッチな目で笑って。「また今度な?」と、意味深な台詞を漏らしてた。
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