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side.Akihito 「チッ…だから言わんこっちゃねぇ…」 予想してた不安が的中し、俺は頭を抱えていた。 確かに、保は目立つ顔じゃねぇし。 性格だって控えめで、地味な方かもしんねぇ。 それでも俺は─────俺だけは。 アイツの本質っつうか…中身も外見も全部ひっくるめて、可愛くて愛おしいと思ってる。 俺だけがアイツを理解して、愛してやればいいだと。 それで良かったんだ、ホントは… 文化祭…俺と水島のクラスの模擬店、コスプレカフェは大反響を呼んだ。 それに対抗して6組───…保のクラスも急遽、衣装を手配して。 サイズの問題だかなんだかで、クラスで一番細身でチビな保が…女装する羽目になっちまったんだが。 一番アイツの事を知ってると高を括ってた俺でさえ、眼から鱗なぐらいに保は別人に変貌を遂げて。 そんじょそこらの女共なんざ、目じゃねぇくらい似合ってたから。 まさに美少女。 始めは良いモン見れたな~…とか、浮かれてたんだけどよ? ふたりして校内歩き回って。 うちの生徒だけでなく、一般客の野郎共の反応をもまざまざと見せつけられて…。 すぐに後悔したが、ちっとばかし遅かったみてぇだ。 次の日から保に集まってきた、男子生徒らの視線。 保は俺に群がってくるヤツを気にしてか、自分に向けられてるソレには、全く気付いちゃいなかったが… 『あの人なんだってよ、3年6組のメイドコスした先輩。』 『マジで!?でも、なんか普通じゃね…』 『ばーか、ああいう地味顔のがバケるんだよ。』 ヒソヒソと交わされる保の噂話に、苛々が募る。 いつもなら俺にビビって目も合わさねぇクセに。 文化祭後の興奮冷めやらぬ…ってとこなのか、それとも俺が大人しくなっちまったからか。 周囲の警戒心もなんか緩くて。 堂々と保を見てやがるから、気にいらねぇ…。 『てかさ、佐藤って上原とガチで付き合ってんの?』 『スゲェ噂だもんなぁ。最近の上原、明らか落ち着いたし?』 『タラシって聞いてたけど、男もイケんだな…』 『じゃあ佐藤ってヤツも、やっぱ上原とヤッちゃってんの?』 『かもな。けど俺、あのメイド姿なら勃つかも───』 ──────ガンッ…!!!! 『ヒッ!!!』 「う、上原君っ…!?」 我慢出来ず、真横の壁に拳をめり込ませた俺に。 辺りの空気が一瞬で凍り付く。 驚いた保がビクンと肩を揺らして。 しまったなと思いつつも、この湧き上がる醜い感情は、易々と治まりはしなかった。 「どう、したの…?」 不機嫌極まりない俺に、泣きそうな顔して問う保。 空気を察した野次馬は、見る間に距離を取り始め。 俺は保の手前もあり、握り締めたままの拳を静かに下ろすと、「何でもねぇよ」とひと言告げて怒りを圧し止めた。 「行くぞ、保。」 「え…あ、うんっ…」 未だに向けられる視線を威嚇しながら、隠すよう保を腕の中へと引き寄せると。 俺は保を連れて、急くように屋上を目指す。 『あれが…』 そんな中、野次馬とは異なる感情を湛えた視線が存在していたが… その時はまだ、誰も気付く事は無かった。

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