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side.Akihito
「ん?何コレ…?」
その日の放課後、
いつも通り保と並んで玄関まで来たところで…
事件は起こった。
互いにクラスは端と端なもんだから、下駄箱も離れていて。そこで先に靴へと履き替えた俺は、入り口前で保を待っていたんだが。
「何してんだよ、保?」
たかが靴を履くだけだってのに、いつまで経ってもアイツがこないもんだから。
焦れた俺が、6組の下駄箱まで様子を見に行くと──…
「あっ…う、上原君……」
俺の声にあからさまに動揺し、咄嗟に背後へと何かを隠した保。
「ま、待たせてゴメンね、行こっか…」
何事も無かったように振る舞ってるつもりだろうが。
嘘が苦手な保の手足はモロぎこちなく、ロボットみてぇに不自然極まりないもんだから。
「保。」
すぐにピンときた俺は手を差しだし、隠したモンを出すよう無言で促すと。
「あ…ううっ……」
有無をいわさぬ俺の威圧に、すんなり観念した保は。
怖ず怖ずと俯いたまま、隠してたモノを俺へと差し出した。
「何で隠すんだよ?」
「えと、なんとなく…ごめんなさい…」
たぶん悪気は無いんだろうが…
恋人の俺としちゃ、はっきり言って面白くねぇワケで。
それが…
『佐藤 保様』
予想通り、保に宛てられたラブレタ────…
だったんだからな。
「こっ、コレってさっ…」
保が遠慮がちに口を挟む。
下駄箱に自分宛ての手紙なんて、初めてなのか。
ちょっと興奮気味な様が、更に俺をイライラさせんだけど────
「果たし状、だよね?」
「……………は?」
オイオイ…今時んな事で、手紙寄越すヤロウがどこにいるんだよ?…と。保の天然っぷりに、俺の張り詰めてたモンが一気に吹っ飛んじまう。
だがしかし…コイツは現実問題なんだと、すぐ我に返ると。俺は手紙の封を切り、中を物色し始めた。
「あっ、ちょ…」
勝手に読み出した事に保がオロオロするも、無視して。手紙に目を通した俺は、ピクリと眉を潜める。
「やっぱり果たし状?…僕なんかと決闘して意味あるのかなぁ?」
自分宛のラブレター…という概念自体が無いのか。
勘違いしたままの保には、敢えてツッコミを入れず。俺は自分だけ手紙を読み終えると…
「う、上原君っ…!?」
迷わずビリビリに破って、ゴミ箱へと押し込んだ。
保は口を開けて絶句。
何か言いたげにこっちを見上げてはいたが…俺は気にせず無視して歩き出す。
「ねぇ…差出人、誰だったの?こういうのって放置しないで、ちゃんと話した方が────…」
端から果たし状だと疑わない保は…
相手の報復を気にしてか、不安を口にしながらトコトコとついて来る。
そこで俺が急に立ち止まると、保は勢い余って背中にぶち当たってきて。振り返れば打ちつけた鼻を赤くし、涙目でそこを押さえていた。
「忘れろ。」
「…ふぇ?」
「手紙の事は忘れろ。…いいな?」
ずいっと顔を近付け、凄んでやれば身を竦め息を飲み込む保。俺は更に続ける。
「何があっても、コイツには絶対に関わるなよ。」
「え?あ、うんっ。…でも僕、誰だか分からないんだけど…」
腑に落ちないながらも俺の真剣さが伝わったのか、
保は素直に頷いて。
よし、と俺はまた歩き出す。
(いいんだ、お前は何も知らなくて…)
保は何のことだか分かっちゃいねぇだろうけど。
その方が絶対…お前の為なんだよ。
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