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side.Tamotsu
「よっし!今度こそは流されないで、いっぱいお話するぞー!」
人目も憚らずガッツポーズで気合い注入。
なんだかんだ、ふたりっきりになるとどうしてもエッチ…な方向にいっちゃうから。ゆっくり語り合うなんてコト、今まであんまりしてこなかったんだよね。
まぁ…今が一番恋人としてラブラブな時期だから、仕方ないのかな?
僕だって今まではどっちかって言うと、淡白な方だとは思ってたけど。上原君とそういうコトをするの…嫌じゃなかったり、する。
寧ろ大好きな人に求められてるんだって、スゴく実感出来るし。その、普通に気持ちイイからさ…流されてるだけとは、一概にも言い切れないんだよね…。
僕から誘うなんてコトは、まず出来ないし。
(いいや、ここはキチンと話しなくちゃ!)
甘えてばかりじゃ、先には進めないし。
上原君とずっと一緒にいたいなら…
大切なコトなんだ、絶対。
「僕も頑張るぞー!」
更に気合いを重ね拳をぐっと握り。
いつの間にやら校門前までやって来ていた僕は。
あーでもないこーでもないと、ひとりブツブツと物思いに耽りながら歩いていると…
「佐藤サン。」
ふいに名を呼ばれ、振り返れば…
「はぇ?」
目の前に、見知らぬ男の子が立っていた。
暫く茫然とそのコを眺める。
制服は僕と同じで。すらりと細身だけど、男っぽい体つきの素朴でいてカッコイい男の子。
上原君が野性的でギラギラした男前なら。
このコは派手じゃないけど、陶器みたいに端正な顔立ちで。まるで人形のように無機質な印象の瞳が、じっと僕へと向けられていた。
一見古風で真面目そうな雰囲気があるんだけど。
短めにざっくり刈られた灰色の髪は、襟足長めだし。
耳にはばっちりピアスが嵌めてあるから…
「えと…」
3年全員を把握してるワケじゃないけど、多分このコは後輩…なんだと思う。
背は僕より遥かに高いし、大人っぽいけどね…。
もしかしたら、勘違い…だったのかも。
佐藤なんて名前どこにでもある名前だし。
そう結論付け、また前に向き直ろうとしたら…
「佐藤 保サン。」
「え、あっ…ハイッ…」
あらら、やっぱり勘違いじゃなかったみたいだ。
そのコはじっと、ガラス玉みたいな目線をこちらへと向けてきて。ゆっくり僕との距離を詰めると、
「手紙。」
「え?」
淡々とした口調でぼそりと告げてきて。
一瞬なんのことだか解らず、僕は疑問符を浮かべる。
「昨日、待ってたんスけど。」
そう言われて思い出したのは、上原君が破り捨ててしまった“果たし状”らしき手紙で…
「あ!手紙くれたのって、キミ…?」
恐る恐る問うと、コクンと頷かれた。
…って事は、やっぱり果たし状?
大人しそうなコだけど、ちょっと不良っぽいし…。
ならわざわざお礼参りにでも来たんだろうか、と。
不安に駆られ、背中にひやりと汗が流れた。
どうしよう、マズいよねコレ…
「ごめんなさい!そのっ、色々あって手紙の内容読んでなくって…だから、えっと…」
さすがに破って捨てちゃいましたとは言えず、
もごもごしていると…
「…そうッスか。」
さして気にした様子もなく、無表情のまま首を傾げる彼。
「あのっ、僕に何か…」
恨みでもあるんだろうか?
でもホント彼とは初対面だし、身に覚えがないんだけどな…。
彼から僕に対する敵意とか、そういう禍々しい感じは一切見受けられなかったけど。イマイチ彼の表情が読めかったので。
僕は不安を抱きつつも、じっと彼の返事を待った。
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