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side.Tamotsu 「いちおーラブレター、だったんスけど。」 なんだ、あの手紙は果たし状じゃなかったのか~。 良かった──────…って、んん? 「え?…ら、ぶ…?」 必死に頭を回転させてるのに、思考は上手く機能せず。僕は口を開けたまま、愕然とする。 「で、返事。」 しかも少年は相変わらず表情を変えぬまま、 更に僕を追い詰めてきて。 「俺と付き合ってくれません?」 信じがたい台詞を、連投するものだから… 「キミ、が…?」 僕と?…そう指差し、魚みたいに口をパクパクさせれば。迷わず彼はウンと頷いてみせた。 完全に固まる僕。そこへ────… 「わっ…!!」 放心状態に陥ってる僕の腕が、後方へと思い切り引っ張られてしまい。 「誰が誰と…付き合うだって?」 「う、上原君…!?」 僕の身体を抱き留めたのは、恋人の上原君であり。 どこから話を聞いてたのか…ヒドく怖い顔をして、 さっきの少年を睨み付けていた。 「上原…」 この学校の生徒なら、上原君の噂くらい知ってるだろうに。 しかし、そのコは怯んだ様子もなく。 その態度は全く変わることはない。 「コイツは俺のなんだよ。」 ぐいと後ろから腕を回され、肩を抱き寄せる上原君の手に力が込められる。 急展開な状況に、僕だけが取り残され。 ふたりが醸し出す不穏な空気を感じつつも、 どうにも出来ず…ただ黙ってオロオロするしかなかった。 「だから?」 僕と話してた時は、それなりに丁寧だったのに。 恐れ多くも上原君相手に、彼は何故だか強気に返していく。 寧ろその声音は冷たさを増し。瞳にはなんだか殺気立ったオーラまで、発してるような気がしたから。 ホント、このコって一体… 「俺、佐藤サンのこと好きだし。」 「テメェ…分かって言ってんのか…」 しれっとした態度の少年に、上原君の額にピシリと筋が成される。 今は登校時間の為、集まりつつある生徒の波が僕らに気付くと…。 それらは一斉に足を止め、皆が遠巻きにしながらも固唾を飲んでいた。 「う、上原君…!」 今にも殴りかかってしまいそうな雰囲気の上原君。 僕は何とかしなきゃと、回されたままの腕を必死で掴んだら… 上原君の鋭い視線は、未だに彼へと向けられていたけれど。僕の不安を感じ取ってくれたのか、それを和らげるかのよう強く抱き返してくれる。けれど… 「お前の気持ちなんざ、知るかよ…」 いくら上原君が凄んでみせても、彼は一向に態度を改める事はなく。 「俺もアンタと話してるワケじゃないから。」 なんていうか、態と挑発してるみたいだ…。 「だから、保は俺と付き合ってんだよ!!」 往来で堂々と同性愛を公言する、上原君だったけど。 既にそれを気にかける余裕など、僕には無いため… 上原君と少年を交互に見上げては、静かに成り行きを見守る。 彼は少し考えるような素振りを見せた後、 僕をじっと捉えると… 「なら佐藤サンが、俺を好きになればいい。」 彼もまた大胆不敵、上原君に向かって真っ向から挑戦状を叩きつけてみせた。 「……は?」 これにはさすがの上原君も、呆れ顔で言葉を失い。 不愉快そうに眉間へと皺を刻み込んでいたが… 「ってコトで、俺負けませんから。」 そう言い捨てた彼は、じゃあと僕にひと言告げると… あっさり背を向けてしまった。 「高月…!!」 上原君は彼の事を名指しで呼び止めたけど、 その足が止まる事はなくて。 「…っの野郎……」 「待って、上原君…!!」 なおも食ってかかろうとする上原君に、僕が懸命に縋りついた事で。その場はなんとか丸く治まった。

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