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side.Tamotsu
「クソッ…!」
怒りを如実に露した上原君から、逃げるよう動き始めた生徒の波。
仕方なくその波から外れ、端へと移動しながら。
上原君が歯痒げに正門の壁を蹴り飛ばした。
その姿に怯える生徒達の視線を浴びつつも、
僕は不機嫌極まりない上原君をなんとか宥める。
「どうしたの?そんな怒るなんて…」
不良だなんだと言われてるけど。
上原君は無闇に喧嘩を売るような人じゃないと思う。
少なくとも、僕が知る限りでは…。
「…お前、解ってねぇのかよ?」
僕の問いに対し、更に不機嫌さを増す上原君。
けれど何のことやら、僕には全く理解出来なくて。
ビクビクしながら反射的に「ごめんなさい」と頭を下げてしまった。すると…
「はぁ────…たく、お前は…」
途端に上原君は大きな溜め息を吐きながら、ガックリと肩を落として。しょうがねぇなと苦笑を浮かべると、僕のくせっ毛をガシガシと乱暴にかき乱した。
なんだか良く解らないけど、機嫌は治ったみたいだ。
「そういえば、今日は来るの早いんだね?」
3年になってからの上原君は、殆ど遅刻もしなくなったみたいだけど。
それでも大抵は、予鈴ギリギリで来るのが当たり前だったハズなのに。今日は随分と早い気がする。
「ああ、それは────…」
上原君は一瞬バツが悪そうに、語尾を濁したが…
「アイツが…お前にちょっかい出してくんじゃねぇかって、よ…」
そうボソボソと鼻頭を掻きながら答える上原君。
アイツって…もしかしてさっきの『高月 』ってコの事かな?
「まあ、来て正解だったワケだ。チッ…あの野郎…」
話してたら怒りが再浮上したのか。
上原君は眉間に皺を寄せ、拳を握り締める。
「えと、知ってるコ…なの?」
僕が疑問を口に、首を傾げても。
上原君は何か物思いに耽りつつ、曖昧に生返事するだけで…
「とにかく、アイツには二度と近付くんじゃねーぞ。」
と、最後は誤魔化すよう注意を促すだけで。
早々と話を打ち切ってしまった。
勿論僕は納得いかなくて。
口を開こうとしたんだけど────…
「分かったな、保?」
「うっ、うん……」
有無を言わさぬ上原君の気迫に負けてしまい。
渋々と頷くしかなかった。
気付けば既に登校する生徒の数も途切れ途切れに、
校舎へと流れて行って。
上原君も話は終わったとばかりに、さっさと歩き出してしまうものだから。僕も慌てて後に続く。
(ホントにどうしちゃったんだろ、上原君…)
斜め後ろから盗み見た彼の視線は遥か遠く、ずっと険しいままで。さっきの…高月君てコの事でも考えてるのか、とても声を掛けられる雰囲気じゃない。
だからって、なんだか僕だけが蚊帳の外みたいな気がして。スゴく不安だったから…。
(昼休みに、ちゃんと聞いてみよう…)
いっぱい話をするって、決めたんだから。
僕は意を固め、大好きな背中を必死で追い掛けた。
大丈夫。
きっと上原君なら、応えてくれる。
そう信じて…。
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